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第24話

契約書にはこうも書かれていた。今回の交渉に鈴音は必ず同行しなければならず、その内容を他人に漏らしてはならないと。交渉の日時は委託者の決定に従い、鈴音はそれに従わなければならない。交渉が成立するまで、契約は破棄できない。

つまり、この契約はサインした瞬間から効力を発揮しており、鈴音がいくらお金を工面して司に返しても無駄だった。彼女は司に付き添い、その交渉を成立させるまで契約を履行しなければならないのだ。そして、契約を破棄する権利は委託者だけにある。

契約の内容を確認した鈴音は、愚かな妹を締め上げたい気分になった。

やっぱり、簡単な話じゃなかった!

鈴音が頭を抱えていると、数人の同僚たちが次々とオフィスに入ってきて、歩きながら話をしていた。彼女の席の近くでの会話は、鈴音の耳にもはっきりと聞こえてきた。

「だから言ったじゃん、朝倉マネージャーとあの上司がデキてるって!ほら、朝倉マネージャーのお母さんまで来て、宮崎マネージャーを嫁にしたがってるみたいな顔してるし」

「でも朝倉マネージャー、既婚じゃなかったっけ?上司と浮気してるなんて、奥さん知らないの?」

「奥さんがイマイチなんじゃないの?だから会社で浮気するんだよ」

「旦那に愛されない上に、姑まで嫁を取り替えたいって、朝倉マネージャーの奥さん、可哀想すぎる」

「……」

数人の同僚たちは仕事に戻るため、ゴシップ話を一旦やめたが、オフィスが静かになった後も、鈴音は動かず、顔には冷静な表情を浮かべたまま、携帯を握りしめていた。その手の指節は白く浮き出ていた。

裕之が浮気をしていることを知りながら、鈴音は裕之と蘭に対して度々我慢してきた。問題を大きくしないために、できるだけ平穏に過ごそうとしていたのだ。しかし蘭は、直接会社に来て浮気相手に優しくするという厚かましさだった。

裕之もまた、好き勝手している。まるで鈴音が会社で二人の関係を公表する度胸がないとでも思っているかのようだ。

鈴音は携帯を見つめていたが、ふと何かに気づいたように微笑んだ。

司が話そうとしている交渉は、きっとリスクが大きいものに違いない。しかも、自分には契約を破棄する権利がないなら、いっそのこと司の提案を受け入れることにした方がいい。

寧々は部長の誕生日を利用して、鈴音を失脚させ、会社から追い出そうと計画しているようだが、鈴音はその策
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