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第2話

「天楽宮」クラブは街中で最も有名な金の使い所であり、男女の欲望が渦巻く風月の場だ。そこでは様々なタイプの男と女が溢れている。

鈴音はバーカウンターに腰を下ろし、幾杯かのウィスキーをあおった。すると、心の中にあった邪悪な考えがどんどん膨れ上がっていった。

「子供を産むなら、誰の子でもいいじゃない?むしろイケメンなら、子供も可愛くなるかも!」

そう思いながら、鈴音の視線はダンスフロアの中をさまよい、やがて一人の高身長の男にピタリと止まった。

顔ははっきりと見えなかったが、その身長と外見は群衆の中でもひときわ目立っていた。

彼はまるで周囲に囲まれているようで、後ろにはスーツ姿の男女が数人付き従い、その存在感は際立っていた。

「この人にしよう!」

そう決めると、鈴音は深呼吸し、髪をかき上げてからハイヒールを鳴らしながら「ふらふら」とその一行に向かって歩み寄った。

「うわ、目が回る!」

すれ違う瞬間、鈴音はわざとバランスを崩して足をくじき、まっすぐ朝倉司の胸に倒れ込んだ。

力強い大きな手が、鈴音の腰に回り、しっかりと彼女を支えた。

初めて感じる冷たいが頼りがいのある抱擁と、濃厚な男性のフェロモンが鈴音を包み込み、彼女は喉がカラカラに渇くのを感じ、もともとの理性が次第に遠のいていった。

「あんた、すごくいい匂い......」

司は冷ややかな眉をしかめ、後ろに控えていた秘書とボディーガードたちは驚いて目を丸くしていた。この明るい時間帯に、まさかこんな大胆な女が現れるとは!

「お嬢さん、もう少しご自重ください」男の声は氷のように冷たく、まるで深い氷穴に引きずり込まれるような冷酷さだった。

鈴音はその声に一瞬固まり、その聞き覚えのある声に思わず顔を上げた。目が合った瞬間、鈴音は司の冷たい視線に飲まれそうになった。その眼差しは冷たい星のようで、まるで心を見透かすかのようだった。

この瞬間、鈴音の心臓は止まりそうになった!

彼女は目を見開き、間近にあるこの冷たい顔を凝視した後、ようやく唇を震わせながら声を絞り出した。「つ......司おじさん?」

神様よ、私は一体何をしてしまったのだろう! まさか相手が司、裕之の名ばかりの叔父だとは!

世間一般では、彼が朝倉家に養子として迎えられたことは知られていたが、朝倉家の跡継ぎとして司は幼い頃から国外で管理学を学び、朝倉家の財閥の跡継ぎとして朝倉家の当主が六十歳の誕生日に彼に全てを託したのだ。

彼は京城の上流社会で最も輝かしい「ダイヤモンドの独身貴族」であり、皆が憧れる大人物である。

鈴音の姑も司との縁を深めたがっており、裕之の昇進はすべて司にかかっていると言っていたが、彼女の願いは空振りで、司はまったく関心を示さなかった。

鈴音もまた司に会う機会などほとんどなかった。

初めて彼とこんなに近くで対面するのはこれが初めてだった。

彼の顔立ちは冷たく、彫りの深い端正な顔立ちは、まるで鈴音の全てを見透かすようで、鋭く、冷たさが漂っていた。

「司おじさん......す、すみません」

鈴音が二度目に「おじさん」と呼んだ瞬間、司はようやく反応を示した。

眉をひそめ、鈴音から手を放すと、無表情のままその場を去ろうとした。

彼はこのように自ら飛び込んでくる女性には、まったく興味がなかったのだ。

「司おじさん、待ってください!」

鈴音は決意を固め、せっかくの機会だからと一か八かでやり通すことにした。もし司のような金持ちに取り入ることができれば、それも悪くはない。

「わ、私は今日、気分が悪くて、ついお酒を飲みすぎてしまったんです。そんな私をこのバーに一人置いていくんですか?ここ、危ないんですよ」鈴音は唇を噛み、可愛らしい無害そうな表情を作り出した。

彼女は密かに司の反応を伺い、彼が依然として無表情であるのを見て、わざと足首を触りながら痛がる素振りを見せ、「それに、さっき足をくじいちゃって......本当に痛いんです」と弱々しく訴えた。

司は先ほどまで表情に一切の変化を見せなかったが、今や唇の端には皮肉な笑みが浮かび、目には一瞬の興味が垣間見えた。

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