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第28話

「あの人は......私の元カレです」鈴音は躊躇しながらも、ついに口を開いた。「数年前、私が海外で留学していた時に彼と知り合ったの。名前はもう知っているでしょう」

「続けて」司は表情を変えず、彼女の話を聞く姿勢を見せた。

鈴音は唇を噛んだ。「最初はすごく仲が良かったの。でもある日、彼がまるで別人のようになって、私に無理矢理手を出そうとしてきて、それだけじゃなく、殺そうとまでしてきて......なんとか逃げ出して警察に通報することができた」

鈴音は陽生の家が裕福で、家族がY国の上流階級とつながっていることを知っていた。この程度の罪なら、家族が一声かければ簡単に逃れられる。だから、彼女は最初から期待などしていなかった。

しかし意外なことに、1年の懲役判決を陽生はあっさりと受け入れ、警察に連行される時も、彼は相変わらず優雅な口調で、「待っててくれ」と言い残した。

陽生が収監されてから、鈴音は1週間連続で悪夢を見続けた。彼の報復が怖くなり、すぐに帰国して名前を変え、裕之の口説きを受け入れたのも、その出来事を忘れたかったからだった。

まさか、3年が経った今、陽生がここに現れるとは思わなかった。

陽生に声をかけられた瞬間、彼女はまるでその場に釘付けにされたかのように動けなくなり、息が苦しくなった。もし司が現れて助けてくれなかったら、どうなっていたかわからないほどだった。

「彼がここに来たのは、君を探しに来たと思っているのか?」司は鈴音を一瞥し、彼女の性障害の原因がこの事件によるものだと知って、心の中で少し同情の念が湧いた。

彼女もまた、哀れな人間だ。

「彼の家のビジネスは主にヨーロッパが中心で、アジアにはほとんど関わっていません」鈴音は戸惑いながらも頷き、「なぜここに来たのかはわからないけど、心の中がざわざわして落ち着かないんです」

「長谷川は見たところ、かなり支配欲が強そうだな」司は分析し、「君が不安なのは、彼がここで何かしでかして、君を連れ去ろうとするのが怖いからだろう」

司は少し間を置き、唇にわずかな笑みを浮かべながら続けた。「鈴音さん、ただの海外出張での交渉に付き合ってもらうだけなのに、君の元カレを追い払えなんて、どう見ても割に合わない取引だな」

「割に合うかどうか、おじ......いや、司さんがよくわかっているはずです」鈴音は無意識に「おじさ
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