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第29話

「司さん、それはちょっとひどすぎませんか?」鈴音は司のやり方に驚き、息苦しさを感じた。「司さんが早めに自分のことを片付けて、出張に備えろって言ったんじゃないですか?」

「鈴音さん、俺が無償で手助けするといつ言いましたっけ?」

「......」

資本家って、本当にどこまでも抜け目がない!!

鈴音は何度も深呼吸をし、冷静さを保とうとしたが、司は相変わらずの淡々とした表情を崩さなかった。そして鈴音に尋ねた。

「どのホテルに送ればいい?それとも?」

「お手数ですが、家まで送ってください」鈴音は微笑みを浮かべたが、その言葉は歯の隙間から絞り出すように出てきた。今はもっと大事なことがある。

「ありがとうございます」

「気にすることはない」

鈴音は自分の住んでいる場所を運転手に伝えなかったが、十数分後、車は朝倉家の門前に停まった。

我に返り、いつの間にか着いていたのだろうと確認しようとすると、見えたのは遠ざかる車の後ろ姿だけだった。冷たい風が吹きつけ、鈴音の足は震えた。家の明かりがついているのを見て、彼女の目には冷たい光が宿った。

「お義母さん、まだ起きてたんですね?」鈴音が家に入ると、蘭はリビングでテレビを見ており、玄関には裕之の靴がなかった。どうやら司が裕之をどこかに連れ出してくれたようだ。

鈴音はすぐに状況を把握し、心の中で司に感謝した。

帰る途中、裕之が家にいるとやりにくいかもしれないと心配していたが、司はすべてを手配してくれていた。まるで鈴音の次の行動を全て見通しているかのように。

「眠れなくてね」蘭は鈴音が妊娠していることもあり、以前よりも態度が和らいでいた。「妊婦なんだから、あまり外を歩き回らない方がいいわよ。赤ちゃんに何かあったらどうするの?」

「気をつけてるので、大丈夫です。赤ちゃんに何も問題はありません」鈴音は微笑みながら蘭の隣に座った。

「お義母さん、少しお金を貸していただけないでしょうか?」

鈴音がお金の話を切り出すと、蘭の顔色は一変した。

「お金なんて持ってないわよ!あんたたち結婚してからずっと自分たちのお金は自分たちで管理してるでしょう?私は一度もあんたたちの金をもらったことなんてないでしょ!」

鈴音はこのクソばばがよくもそんなことを言えたものだと呆れた。

結婚した当初、蘭は貧乏くさいことをほのめかし、友人と出か
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