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第3話

この女、演技が下手すぎて、一目で見破れる。

だが、少し面白い。

「つ、司おじさん......」男の鋭い視線に見透かされたようで、鈴音は思わず身震いし、怯んでしまった。

しかし次の瞬間、突然足が宙に浮き、鈴音は目を見開いた。まさか司にお姫様抱っこされるとは!

ふわりと体が浮かぶ感覚に慌てた鈴音は、反射的に司の首に腕を回した。彼の広くて温かな胸に抱かれ、彼の香りが鼻をくすぐる。顔が熱くなり、心臓がドキドキと早鐘のように鳴り始めた。

こんなに直接的に?さっきまでは正人君子のふりしてたくせに?

「まだ足が痛いのか?」頭上から司の冷たい声が降ってきた。

「え......」鈴音は無意識に唾を飲み込んだ。

「もう......痛くない......」

鈴音はぼんやりと司の彫刻のように整った横顔を見つめた。

「ふん......」司は薄く唇を引き締めたまま、顔色一つ変えず、周囲に取り巻かれながらバーの外に停めてある車に向かって歩き出した。

この男、一体どういうつもりなの?

鈴音は混乱したままだった。

車に乗せられてようやく我に返ったが、口を開こうとした瞬間、司は既に運転手に指示していた。

「『インターコンチネンタル』へ」

「......」

イ、インターコンチネンタル?それって五つ星の高級ホテルじゃない!

ホテルの最上階の豪華スイートに入ると、司は鈴音をベッドに投げ出し、そのままバスルームに向かった。ベッドに残された鈴音は、しばらくしてようやく状況を理解し始めた。

彼女......本当に司を引っかけて、ホテルまで連れ込まれたの?

思ったよりもずっと簡単にことが運んでるけど、これって罠じゃないよね?

でも、鈴音はそれどころではなかった。

思い浮かぶのは、さっき目撃した裕之の浮気の現場の光景ばかり。それに酒も入っているせいで、これから起こることへの恐怖感はほとんどなく、むしろ少し楽しみですらあった。

司はこんなにイケメンなんだし、寝るだけならむしろ得だ!

それに彼は裕之の叔父でもある。

この形であの浮気男に仕返しするのも悪くない!

鈴音はバッグを手元に引き寄せ、中をかき回して探し物を始めた。司がバスルームから出てくる前に、薬を飲んでおきたかったのだ。

大学時代に付き合っていた元カレが信じられないほどのクズで、鈴音を無理やり襲おうとしたことがあった。

鈴音は必死に抵抗し、未遂に終わったものの、それ以来、異性との親密な接触には拒否反応が出るようになってしまった。

裕之と結婚してからも、何度か受け入れようとしたが、肝心な時には吐き気がしてしまい、裕之は「無理しなくていいよ」といつも慰めてくれた後、隣の部屋で一人寝ていた。

裕之が優しくすればするほど、鈴音は心の中で申し訳なく思い、海外でこの症状に効く薬があると聞きつけて、結婚一周年の時に試してみようと決めていた。

でも裕之は、その代わりにとんでもない「サプライズ」を用意してくれたってわけね!

鈴音はバッグをひっくり返して探したが、薬は見つからなかった。出かける時にバッグを変えたのを思い出し、その薬は元のバッグに置き忘れてきたようだった。

その時、バスルームのドアが急に開き、司が姿を現した。

鈴音は目を丸くして彼を見つめ、思わず唾を飲んだ。

司おじさん、まじで最高じゃん!

司はこんなタイプの女性を見慣れており、照明の下でその表情には冷たい光が浮かんでいた。

タオルで無造作に髪を拭きながら、鈴音の方に視線を落とし、彼女の赤らんだ頬に近づいて問いかけた。「満足か?」

「ま、満足です......」

司の男らしいフェロモンに包まれ、鈴音は頭がぼんやりしていた。しかし、ふと思い出したように身を起こし、「あの、ちょっと物を買いに行きたいんですけど」と口を開いた。

このままでは、次に吐き気がしたら司に吐きかけてしまうかもしれないから、それだけは避けたい。

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