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第12話

鈴音が呆然としている間に、浴室の水音が次第に止まり、足音が近づいてきた。慌てて彼女はスマホを元のポケットに戻し、まるで服を拾ったばかりのように装った。

「どうしてここにいるんだ?」裕之は鈴音が別室にいることに驚き、彼女の持っている服を一瞥し、特に異変がないのを確認すると安心したようだった。

鈴音は普段通りに微笑み、服を差し出した。「主寝室に戻らないから、様子を見に来たの。ところで、従弟の子供の満月祝い、いくら包むのがいいかと思って」

「うちとあの家は親しいから、二百万円包んでおけばいいよ」

結構な額だな......

鈴音は一瞬、心の中の違和感を押し隠しながら唇を引き締めて言った。

「そうね、それでいいと思う。でも、裕之も知ってると思うけど、母が入院していて、今手元にあまりお金がないの。だから、お金はそっちで用意してくれる?」

その言葉に、裕之の表情が一変し、反射的に言い返した。

「翻訳部って高給取りだろ?お義母さんの入院費なんて大した額じゃないんじゃないか?」

彼は鈴音がじっと見つめていることに気づき、自分の失言を悟った。

慌てて宥めるような口調で続けた。

「いや、つまりさ、今までこういうことは全部君が担当してたから、俺にはよく分からなくて。だから今回も君に任せた方がいいかと思ったんだよ」

「裕之、確かに私の給料は高いけど、そのほとんどはお義母さんに渡してるのよ」鈴音は感情を抑えながら言った。「じゃあ、お義母さんからもらってもいいけど、私にはその額は無理」

裕之は困惑した顔を見せ、いつもなら素直な鈴音の今回の強硬な態度に驚いていた。無理に押し通すこともできず、しぶしぶ頷き、「分かった、俺が後で用意するよ」と言った。

鈴音が手に持っていた書類に気づいた裕之が、「それ、俺に見せるもの?」と尋ねてきた。

「これは翻訳の資料よ」鈴音は何気なく言い、書類を後ろに引き下げた。「主寝室でペンを探してたんだけど見つからなくて、こっちに持ってきた」

裕之は彼女の説明を信じて、「ペンならベッドの横にあるよ」と教えた。

「分かってる。書類にはもうサインしてあるから。じゃあ、私は戻るね」鈴音はそう言い残し、部屋を出た。

主寝室に戻った鈴音は、力が抜けたようにベッドに腰を下ろした。

今まで、鈴音は自分が裕之の家に嫁いできたことを恥じていた。だからこそ、姑
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