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第15話

涙が無意味なわけじゃない。

ただ、佳子の涙は、祐摩には何の効果もない。

彼女は自分の心はすでに固くなっていて、どんな傷も受けないはずだと思っていた。

でも今、心は少しだけ痛んでいた。

鋭く刺さるような痛みではなく、細かく無数の針がゆっくりと押し寄せてくるような、じわじわと広がる痛みだった。

その痛みは後になって効いてくる。

彼女は立っているのが少し辛く感じるほどだった。

佳子は深く息を吐き、大きく呼吸して動揺した感情を落ち着けた。

彼女は静かに社長室の扉を閉め、秘書室に戻った。

佳子はサインが必要な書類を机の上に置き、新人のインターンアシスタントを呼んだ。「この書類、社長に届けて。明日必要だから」

そのインターン生は社長が怖くてたまらない。

普段の会議でも、まるでウズラのように後ろに隠れていて、社長をちらりと覗くことしかできない。

同僚たちの言うどおり、社長のオーラはまさに圧倒的で、威圧感がすごい。怒らずとも威厳があり、笑顔の裏には鋭さが潜んでおり、その一瞥さえも気品に満ちているのだという。

「お姉さん、私、本当に怖いです…」そのインターン生はこれまで雑務しかしておらず、会社に入って以来、社長室に入ったこともない。

彼女が一番尊敬しているのは佳子で、佳子なら何でもできると思っている。

会社の業務を完璧にこなすだけでなく、社長の私生活のトラブルさえも適切に処理してしまうのだから。

佳子はため息をつき、「宇佐美さんはどこ?」と聞いた。

インターン生はホッとした表情で急いで答えた。「もうすぐ戻ります、あと5分くらいです」

「じゃあ彼女が戻ったら、彼女に届けてもらって」

「了解です」

昼過ぎ、祐摩は美保と一緒に外で食事をしたらしい。

午後の2~3時になっても、彼はオフィスに戻らなかった。

他の人々はようやく安心した様子で、仕事が一段落ついた後には、少し手を抜いても大丈夫そうだと思った。

佳子は午後、特にやることもなく、デスクに座ってぼんやりしていた。

オフィスにあまり人がいないのをいいことに、彼女はパソコンを開き、妊娠中に気を付けるべきことを調べた。

画面には大量のアドバイスが表示された。

彼女は一つ一つ真剣に読み、スマホのメモ帳にびっしりと書き留めた。

しかし突然、彼女は気力を失った。

この子を産むつもりはないのに、
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