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第5話

澄人は晴子を助手席に押し込み、自身は車の前を回って運転席に滑り込んだ。

晴子はこの薊野家のことを知っていた。浜江市の最富裕層で、商業、政治、裏社会を問わず手を伸ばしていない分野はなかった。ただし、薊野家には娘が一人いるだけで、数十年前に駆け落ちして音信不通になっていた。そのため、薊野家は宗族の中から後継者を探して育てていた。これほどの年月、育てられた継承者は20人はいないまでも、10人はいるだろう。

皇位継承を巡る争いでさえ、これほど騒がしくはないだろう。

「薊野家の外に流れていた外孫が見つかったそうだ。今や浜江市中がその人物に会おうと機会を探している。今日の会合は梁井家が設定したものだが、まさか立ち消えになるとは思わなかった」澄人は嘲笑うように笑い、アクセルを踏み込んだ。

「薊野家の外孫?」

「ああ。以前は北原市で活動していたらしい。深川という姓だ」

澄人はブレーキを踏み、停止線で車を止めた。前方の赤信号を待っていた。助手席の晴子は思わず前のめりになり、髪が乱れ、心も乱れた。

晴子は助手席に座り、魂が抜けたように自分のスカートの裾を見つめていた。スカートの下にある物を思い出すたびに、心臓がどきどきした。

もし澄人がこれらのことを知ったら、自分を待っているのは死の運命だけだろう。

当時、澄人に目をかけてもらえたのも、自分の計算があってのことだった。澄人はずっと、彼女を病気の弟の治療費のために風俗業に足を踏み入れた哀れな純真な少女だと思い込んでいた。

「今日は君のところに泊まるよ」澄人のさらりとした一言に、晴子は背筋が凍るのを感じた。

もしこの後部屋に上がってあのことをするなら、バレてしまうのではないか?

澄人に下半身のあの物を発見されたら、自分がどんなに悲惨な目に遭うか想像もつかなかった。

晴子の表情が微かに変わり、どんな言い訳で断ろうかと考えていたところ、澄人の電話が鳴った。家の用事で急いで帰らなければならないとのことで、晴子を途中で降ろすことになった。

晴子はいつものように車を降りたが、電話を受けた時の澄人の表情の大きな変化に気づかなかった。

彼女は澄人の車が疾走していくのを見つめ、交差点で信号待ちをしながら、しばらく我に返ることができなかった。

前に数人が立っていて、ひそひそと話をしていた。突然、ある声が高くなった。「なんてこと
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