第100話

藤島婆さんは夏井淑子の前に立ち、彼女を慰めるように話しかけた。「お嫁さん、正雄は今まだ海外にいるけれど、海外での仕事が終わったらすぐに帰ってきて、あなたと結婚式を挙げるわ。結婚すれば、あなたは正式に藤島家の本当の嫁になるのよ。だから......私のことを『お母さん』と呼んでくれないかしら？」

夏井淑子は涙に濡れた目で藤島家のお婆さんを見つめ、「お母さん......」とつぶやいた。

「ええ、良いお嫁さんだわ。しっかり体を養生しなさい。きっと病気も治るから。必ずよくなるわ」お婆さんは夏井淑子をしっかりと抱きしめた。

窓の外からこっそり覗いていた篠崎葵は、その光景を目にして、胸が締めつけられるような切なさを感じた。

夏井淑子の人生は本当に辛かった。若い頃、策略にはめられ、藤島家の長男である藤島正雄と一緒になるが、当初は藤島正雄が既に妻がいるうえに、三人の子供を持っているとは知らなかった。真実を知った時には、彼女は既に妊娠9カ月、出産まであと半月という時期だったのだ。

子供が生まれてからも、藤島正雄は彼女とその子供に優しく接していた。

しかし、子供が5歳になると、藤島正雄の正妻が現れ、子供を奪い取り、夏井淑子を追い出そうとした。

夏井淑子は抵抗したが、その結果、彼女は息子と共に外国へ逃れることとなった。しかし、藤島家は何度も彼女を見つけ出し、強引に藤島翔太を連れ去った。

母子は幾度となく引き離され、また再会するという日々を送った。

息子が十代になる頃、夏井淑子はようやく藤島家が息子を手放すことはあり得ないと悟った。さらに、息子が藤島家にいるにもかかわらず、相応の地位を得ることができないという現実に直面したのだ。

例えば、藤島家の継承権さえも与えられないということだ。

これほど悲しいことがあるだろうか？

それ以降、夏井淑子は逃げることをやめ、息子の未来のために戦う決意を固めた。息子を藤島家の正当な後継者にすることだけを考えていた。

また、生涯には藤島正雄のたった一人の男がいて、心の奥底では彼のことを深く愛していたのだ。

そのごろから、夏井淑子は一途に藤島家の嫁になり、息子に藤島家の相続権を勝ち取ってやりたいと願い続けた。

そして、そのために夏井淑子は大きな代償を払った。

彼女は10年もの間、刑務所に服役してきた。

その結果、体は完全に壊れてし