第098話

林美月は劣等感に襲われ、どうすることもできず藤島翔太の胸に身を隠した。藤島翔太が口を開いた。「おじいさん、美月は妊娠しています。もうその辺でやめてください。これ以上叱責すれば、美月のお腹にいるあなたの曾孫が怯えてしまいますよ」

藤島健史は絶句した。

「彼女を病院の入口で一度見せたのは、ただあなたに心の準備をしてほしかったからです。俺、藤島翔太がこの生涯で結婚する相手は、彼女だけ。

林美月です。

母が亡くなったら、婚約者として彼女を正式に藤島家に連れて帰ります。ですので、今後、見合い話を持ちかける必要はありません」藤島翔太の言葉には、意見を求める余地は一切なかった。

ただの通告だった。

通告に過ぎなかった。

通告を終えると、藤島翔太は藤島の爺さんに反応する間も与えず、林美月を抱きかかえ、そのまま背を向けて歩き出した。

林美月は不安げに言った。「四郎様、これって失礼じゃないでしょうか？」

「そんなことない」藤島翔太は短く答えた。

「四郎様......」

「翔太と呼べ」

「四郎様......翔太......怖くて呼べません」

「俺はお前の男だ」

林美月は藤島翔太の胸に隠れながら、喜びでいっぱいになり、その呼び方も一段と甘く、可愛らしくなった。「翔太......」

彼女がその一言を言い終わると、ちょうど呆然と立ち尽くしている篠崎葵の前に二人はたどり着いた。彼らの甘いやり取りを聞いて、篠崎葵は一瞬で、これ以上ないほどの屈辱を感じた。

藤島翔太は林美月を車までエスコートし、ドアを開けて彼女を乗せると、その後再び戻ってきた。篠崎葵のそばを通り過ぎる時、藤島翔太は彼女に一瞥もくれず、まっすぐ藤島お爺さんの元へ向かった。「おじいさん、美月を向かいのホテルに送り届けてきます。10分後に戻ります。

母はまだ美月のことを知りませんし、母の最期に余計な心配をかけたくありません。

ですから、母の前では美月の存在を隠していただきたい」

藤島健史は「わかった」と言った。

何も言えるはずがなかった。

彼は藤島家の一家の長であり、藤島翔太の実の祖父であっても、今の藤島家を掌握しているのは藤島翔太だった。藤島翔太が彼と話し合い、婚約者を連れて見せに来ること自体、彼に対する配慮にすぎない。

もし藤島翔太がその気になれば、結婚すら知らせないかもしれない。

藤島健