第85話

病院の病室内。

常盤太郎は佐藤峻介と一緒に座り、小声で尋ねた。「ねえ、優ちゃんのお腹の中の子供……本当に君の私生児なの？」

「何の私生児だ！」佐藤峻介は眉をひそめ、苛立ちながら言った。「その子は僕たちがまだ離婚していない時にできたんだ！」

「離婚？」常盤太郎は目を大きく見開いた。「でも……この子は妊娠してからまだ二ヶ月しか経っていないんじゃないの？それじゃあ結婚中にできた子供だろう。そして……君は今の奥さんにプロポーズまでしている。従兄弟、君は本当に道徳的に問題があるんだ！」

佐藤峻介はベッドでまだ目覚めていない高橋優子を見つめながら、苛立たしげに常盤太郎を睨んだ。「君には説明しても無駄だ！」

ポケットの中の携帯が振動し、佐藤峻介はそれを取り出して一瞥し、眉をひそめてベッドの上の高橋優子を見てから、病室の外に出て電話を受けた。

不機嫌そうに話し始めた。「森本叔父さん……」

「君はもう優ちゃんと離婚しているんだ、まだわからないのか？」

森本進の低くて落ち着いた声は、圧迫感があり、佐藤峻介は無意識に周りを見回した。

「警察署の前で君が優ちゃんを抱きしめている写真は、もう報道を抑えさせた。君が松本里美にプロポーズしたというニュースはまだネットに残っているが、僕は優ちゃんがこれ以上君たちのニュースに巻き込まれることを望んでいない。すぐに霧ヶ峰市に戻れ」

相手の声は冷静でゆっくりとしていたが、それでも佐藤峻介には不安を感じさせる威圧感があった。

「森本叔父さん、僕の母が僕に従弟を送るように言ったんです。彼は高橋優子と同じ研究室にいるんです。本当はもう帰ろうとしていたのですが……」佐藤峻介は言葉に詰まりながら続けた。「優ちゃんが妊娠しているのに気づいたんです」

電話の向こうから何の音も聞こえず、佐藤峻介は眉をひそめて自分から話し始めた。「本当は高橋優子が子供を中絶するのを見届けるつもりだったんですが、彼女の妹が飛び降り自殺したので、どう切り出せばいいのかわからなくなりました」

しばらくして、電話の向こうから森本進が口を開いた。「まず帰って来い。この件は僕が処理する」

「でも……」

森本進は佐藤峻介の言葉を遮った。「それとも、君と優ちゃんの過去が掘り返されるのを望んでいるのか？」

佐藤峻介は唇を噛んだ。「でも、優ちゃんのお腹にいるのは僕の子供だ」