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第52話 僕にはもう父はいない

奈央は気にせず、彼が出て行った後で、ベッドの上の史成に「体調はどう?どこか不調はない?」と尋ねた。

「大丈夫……です」

彼は乾いた笑いを浮かべ、頬が少し赤くなった。

父親に対しては冷たくできたが、奈央に対しては少し照れていた。

「何かあったらすぐに言ってね。私は君の主治医だから」

彼女は言った。

史成はうなずいたが、すぐに何かを思い出したようで、顔色が暗くなった。

「僕……医療費が払えないんです」

彼は目の前のこの医者がとても有名で、手術費用が高いことを聞いていた。彼はまだ子供で、手術費用なんて払えるはずもなかった。

さっき梅園父が去る前にあんなことを言ったのも、息子が金がないことを知っていたからだ。医療費どころか、学費や生活費もないので、きっと自分を頼りにすると確信していたのだ。

「大丈夫よ。病院には専用の援助金があるから、医療費については心配しないで。治療に専念して」

奈央は彼の様子を見て、思わず胸が痛んだ。

彼女は両親がいないとはいえ、史成に比べれば、はるかに幸せだった。

「警察から連絡があったんでしょ?どうするかはもう決まったの?」

奈央は尋ねた。彼が梅園父に説得されてしまうのではないかと心配だった。

もし仁美を解放することになれば、また史成に手を出すかもしれない。次は生き延びられるとは限らない。

史成はうなずき、少し考え込んだ表情で「正直に話すつもりです」と答えた。

奈央はほっとして笑顔を浮かべた。正直に話すということは、仁美を見逃すつもりはないということだ。

「それで君のお父さんは……」

奈央は少し心配して尋ねた。

「実は今になってやっとわかったんです。あの女を嫁にした瞬間から、僕にはもう父親なんていないんだって」

史成はそう言いながら、自分でも苦笑してしまった。

ただ、その笑顔はどこか切なさが漂っていた。

奈央は心を痛め、「まず治療に専念して、今後困ったことがあったらいつでも相談して」と言った。

「ありがとうございます」

史成は答えた。

奈央は病室を出た後、胸が詰まるような思いを感じた。十六歳の子供が、無邪気に過ごすべき年齢なのに、こんな辛い経験をしなければならないなんて。

考えれば考えるほど、彼のために何かしなければならないと強く思った。

彼女は警備課に電話し、梅園父が史成の治療を妨げないように
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