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第58話 改めても時間はありません

彼は突然、前に実家に行った時のことを思い出した。あの時、渡辺さんは霧島様が来たと言っていたが、彼はその時、それを桐嶋家のお嬢さんだと思っていた。しかし今考えると……

間違いなく奈央のことだった。

彼は奈央が宇野の人が嫌いだと言っていたこと、そして彼女の元夫も宇野だと言っていたことを思い出した。結婚して二年間、一度も会いに来なかったと言っていた。

それから桐嶋家の天音が言っていたことも、以前は理解できなかったが、今は全てが理解できた。

全てが最初から兆候があった。ただ彼はそれに気づかなかっただけだった。

電話がいつ切れたのかも分からず、気づけば再び奈央の家の前に立っていた。

手を上げてノックしようとしたが、結局その勇気がなく、そのまま立ち尽くしていた。

翌日、奈央は出勤の準備をして家を出た。

ふと足元を見ると、ドアの前にタバコの吸い殻が落ちているのを見つけ、思わず呟いた。「誰だよ、この非常識な奴。こんなところにタバコを捨てるなんて」

隣のドアで偶然を装って出てこようとしていた椿は、その場で固まった。

奈央がエレベーターに乗り込むのを見て、彼も急いで後を追い、同じエレベーターに乗り込んだ。

彼を見るやいなや、奈央の表情は一気に曇った。

彼女は顔をそむけて、椿の存在を無視しようとした。

「昨日は悪かった。でも君も僕を殴ったんだ。これでお互い様だ」

殴られたとき、彼は奈央をどんな手段で苦しめようかと百通りも考えた。しかし……

遊馬からの連絡を受けた後、すべての怒りが一気に消え去り、奈央にどういう態度で接すればいいのかすら分からなくなっていた。

彼がそのビンタのことを気にしていないと言ったとき、奈央は少し驚いた。いつの間にこんなに寛大になったのだろう?

彼女は椿と徹底的に対立する覚悟をしていたのに、彼は二人の間のことをお互い様と言っていた。

「今日は週末だ。時間あるか?一緒に食事でもしないか」

彼は再び口を開いたが、その態度は驚くほど穏やかだった。

奈央は再度驚き、この人はもしかして魂が入れ替わったんじゃないかと思った。そうでなければ、一晩でこんなに変わることがあるだろうか?

そう思いながらも、彼女は冷たく言った。

「申し訳ありません、宇野さん。今日は仕事があります」

「今日は週末だ。仕事はないだろう」

椿は言った。

「それは
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