第61話 霧島さん、話がある

顔を上げると、二人の視線が交差した。

奈央の錯覚かもしれないが、椿が彼女を見る目が以前とは少し違っているように感じた。

「僕が奢るよ」

椿が言った。

奈央は微笑み、片手で顎を支えて彼を見つめた。

「食事代くらいは自分で出せます、宇野さんにお金を使わせる必要はありません」

彼女は椿に良い感情を持っていない。むしろ少し嫌ってさえいる。彼と一緒に食事をするのは、奈央にとって食欲を失うことに等しい。

「霧島さん、話がある」

結局、椿は先に折れてしまった。

これに奈央はさらに驚きを感じた。二人の間に話すべきことなど何があるというのだろう？

「これまでのことはなかったことにして、僕達の関係を最初からやり直すのはどう？」

彼は尋ねたが、内心はかなり不安だった。

奈央はそれを聞いて笑い、椿を見つめながら首を振った。

「無理です」

「どうして？桐嶋家の件で君を怒らせたのなら、もう一度桐嶋家と協力すれば、それで納得してくれる？」

しかし奈央はまた首を振り、椅子に寄りかかって椿を見つめた。それはまるで面白い劇を見ているかのようだった。

椿は一瞬怒りそうになったが、彼女が自分の元妻であることを思い出し、自分が彼女に非があると考え、怒りを抑えた。

「それじゃあ、どうすれば君の気が晴れるんだ？」

彼は聞き、まるで手詰まりのように見えた。

奈央はしばらく椿を見つめてから、ようやく口を開いた。

「本当はもう知ってたでしょう？」

その言葉が落ちると、椿の表情が一瞬固まった。

「昨夜私に一発殴られたのに、今日は文句を言わずに和解を申し出てくるなんて、どう考えてもおかしいわ。」

「他人に乗り移られた可能性を除けば、唯一考えられるのは、あんたはもうすべてを知ったということ」

彼女はバカじゃない。むしろ昔から頭が良い方だった。

今朝、エレベーターの中で椿の態度が奇妙だと感じたが、その時は気づかなかった。しかし今では、この男が自分が元妻であることを知っていると確信している。

しばらくして、椿はうなずいた。

「昨夜知ったばかりだ。どうして言わなかったんだ？」

もし初対面の時に奈央が自分の元妻だと知っていたら、その後の多くの誤解は避けられたかもしれない。

しかし、奈央はそのことを軽視し、嘲笑を浮かべながら言った。

「知ってようが知ってまいが、どうでもいい