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第65話 お前の元妻が拉致された

事実は、彼女の心配が杞憂だったことを証明した。

三人の屈強な男たちは、彼女を車に引きずり込むと、天音には目もくれず、すぐに車に乗り込んでその場を離れ、あっという間に姿を消した。

事が起こったのは一瞬のことで、天音が我に返ったのは、車が視界から消えた後だった。彼女は慌てて携帯を取り出し、警察に通報した。

しかし……

警察に通報しても、彼女の不安は消えなかった。

「ダメ、奈央ちゃんに何かあったら手遅れになる!」

その思いを胸に、彼女は昨日保存したばかりの番号にかけた。

彼女が気づかないうちに、もう一台の黒い車が角に停まり、中の人物が双眼鏡で天音の方を見ていた。

「一人しかいない?二人ともこっちに来るって話じゃなかったのか?」

その人は言った。

「伊野さんが欲しいのは霧島奈央って女だ。もし逃したら、俺たちがどうなることか……」

車はすぐに姿を消し、どうやら奈央の行方を追うつもりらしい。

宇野グループ社長室。

椿は眉間を揉みながら、海斗の仕事報告を聞いていたが、なぜか胸騒ぎがした。

ちょうどその時、机の上に置いてあった携帯が鳴り、彼は慌ててそれを取り上げた。

「何があった?」

「え?なんで何かあったって分かったの?」

電話の向こうで遊馬が不思議そうに言った。まだ何も話していないはずなのに。

「言え!」

椿は抑えた怒りが滲む声で言った。

「たった今、お前の元妻が拉致されたって情報が入った」

彼はそう告げた。

その言葉が終わるや否や、椿は椅子から飛び上がるように立ち上がった。

「何だって?」

「拉致された場所を送るよ。どうするかはお前次第だけど。とにかく、もう伝えたからな」

そう言って彼は電話を切った。

あの小娘が助けを求めてこなければ、奈央がどうなろうと関わりたくなかったが、求められたからには無視するわけにもいかない。仕方なく椿に連絡したが、彼がどう動くかはもう自分に関係のない話だ。

椿はすぐに遊馬からのメッセージを受け取り、そこには奈央が拉致された場所と事件の経緯が記されていた。

その情報を確認しながら、彼はすでにオフィスを出ていた。仕事報告をしていた海斗は訳が分からず、戸惑った。

今度は何?

「道上!」

オフィスの外から椿の怒鳴り声が聞こえ、海斗は急いで飛び出した。

「宇野様」

「さっき送った場所の周辺にあ
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