第70話 そうよ、私がやったの

町へ戻る車の中、堯之は目を細めている奈央を見ながら、小声で尋ねた。

「大丈夫か？」

「ええ、大丈夫です」

奈央は答えた。

「ありがとうございます」

我に返った奈央はようやく感謝の言葉を口にした。

堯之は笑いながら首を振った。

「俺に礼なんていらないよ。何もしてないんだから」

「助けに来てくれただけでも十分ですよ」

奈央はそれを気にせず答えた。彼女にとって、この借りは確実に負ったも同然だった。

ただ、椿のことを考えると……

あの男を思い出すだけで、奈央の顔色は暗くなった。

悦子は彼の人間だ。彼女が手を下すのも椿が手を下すのも、結局同じじゃないか？

「名臣レジデンスへ送るか？」

堯之は尋ねた。奈央の今の気分が良くないことを察していた。

彼はそれ以上何も聞かなかった。どうせ椿が不機嫌なら、彼はそれで満足だったし、その理由はいずれ分かるだろう。

奈央はうなずき、何も言わなかった。どうやってこの復讐を果たすかを考えなければならなかった。

関谷家の別荘では、悦子がベッドに座り、顔色が青ざめていた。

バレた……

彼女は理由もなく恐怖を感じていた。

しかし、すぐに強引に冷静さを取り戻した。

奈央が知ったところで、どうなる？証拠はないし、電話のSIMカードは記名登録されていないし、送金された口座も海外のもので追跡できない。彼女が椿の前で言ったところで、誰も信じないだろう。

そう考えると、心の中の恐怖は少し和らいだ。

彼女はベッドから立ち上がり、椿を探しに行く準備をした。何もせずに待っているわけにはいかなかった。

リビングに出ると、ちょうどドアから入ってくる椿の姿が見えた。

「椿さん、どうしてここに？」

彼女は笑顔で近づこうとしたが、相手の険しい表情を見て動きを止めた。

椿は冷たく彼女を見つめ、目の前の悦子が別人のように見えた。

剛志が悦子の面倒を見るよう頼んできた時、彼女はまだ二十歳にも満たず、いつも無邪気な顔で彼の後をついて回り、「椿さん」と呼んでいた。

しかし、今の彼女に、その無邪気さは微塵も残っていなかった。

悦子は彼に見つめられ、不安が募った。

「椿さん、あの……」

「どうしてだ？」

椿は冷たく問いかけた。

「どうしてって何が？」

悦子はとぼけようとしたが、直感的に奈央に関係があると感じた。しかし、それを信