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第78話 それは気のせいかもよ

椿は窓の外から視線を戻し、その質問にすぐには答えなかった。

「百恵、愛情はどういうものだと思う?」

彼は突然問いかけた。それは、百恵の質問とはまったく関連のないように思える返答だった。

百恵は心が震え、信じられないように彼を見つめた。

「あなた……彼女に恋してるの?」

「わからない」

椿は首を振った。彼は本当にわからなかった。

「最初はただ彼女に興味があっただけだった。でも、次第に自分でも何が理由なのか分からなくなっていた」

彼はコーヒーを手にし、ゆっくりと話し始めたが、その一言一言が百恵の心に突き刺さり、痛みを感じさせた。

しばらくして、百恵はなんとか落ち着き、不安を抑えながら言った。

「昔のあなたは私に、愛情なんて信じないって言ってたよ。世の中の愛は全て偽物だって」

「ああ」

椿も反論しなかった。

もし奈央に出会っていなければ、彼も自分の長年死んでいた心が再び動くことになるとは思わなかっただろう。

「椿、それは気のせいかもよ」

百恵は口を開き、椿の視線を受けながら続けた。

「彼女に対する感情は恋愛感情だと勘違いをしているかもしれない。単に好奇心か一時的な気の迷いだってあり得るでしょ?」

「確かにそうだ」

彼はうなずき、その可能性を認めた。

その様子を見て、百恵はほっとした。まだ完全にハマっていないようだった。

だが、このままではいけない。いつか椿は完全に彼女に心を奪われたら、彼女が入れるチャンスは二度とこないだろう。

半時間後、栄介がレストランに到着し、椿を見ると本能的に百恵の後ろに隠れた。彼は椿を少し恐れていた。

椿は彼に冷たい一瞥をくれただけで、他には何もしなかった。

百恵は彼の手を引いて座らせ、「あとであの子が来たら、ちゃんと謝るのよ。いいわね?」と言った。

「ああ、わかった」

栄介は頷いたが、その口調は極めて投げやりだった。

五分後、奈央が現れた。

「こんにちは」

百恵は立ち上がり、奈央に手を差し出した。

「栄介の姉、伊野百恵です」

奈央は軽く会釈し、「霧島奈央です。こんにちは、伊野さん」と答えた。

彼女は百恵と握手することなく、相手の顔に一瞬浮かんだ戸惑いを気にすることもなかった。今日ここに来たのは友達を作るためではなかった。

「霧島さん、今回の件は栄介が悪いでした。私からも厳しく叱り、二
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