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第81話 宇野さんには迷惑をかけません

「伊野さんと友達になれたら光栄です」

奈央は微笑みながら、二人の姿が消えるのを見送った。

相手の姿が消えると同時に、奈央の顔から笑顔も消えた。それを見た椿は、無力感を覚え、首を横に振った。

「嫌なのに、なんで受け入れたんだ?」

「彼女がわざわざ申し出てくれたのに、私が断ったら、器が小さいと思われるよ」

奈央は彼を一瞥し、席を立ってレストランの外へ向かった。

椿はその後を追い、もうこれ以上は何も尋ねなかった。どうせ女同士の複雑な感情なんて、彼には理解できないものだ。

「どこに行くんだ?送っていくよ」

「宇野さんには迷惑をかけません。迎えが来ていますから」

そう言っているうちに、白いスポーツカーが奈央の前に停まった。

堯之の顔が現れた瞬間、椿の表情は目に見えて険しくなり、冷ややかな視線を投げかけていた。

「車を変えたのですか?」

奈央は驚いた。彼が以前乗っていたのは赤いスポーツカーだったはずだ。

「控えめにしろって言われただろう?これなら十分控えめだろ?」

堯之は目の前に停まっている世界限定版のスポーツカーを指し、そう言った。

奈央は困った表情を浮かべた。色は確かに控えめだったが、実際には前よりも目立っている気がした。

「まあまあですね」

彼女は苦笑いを浮かべ、それ以上は何も言わなかった。

堯之は紳士的に車のドアを開け、「どうぞ」と言わんばかりの仕草を見せた。奈央はそのまま乗り込もうとしたが、片足を車内に入れたところで突然振り返り、少し離れたところに立っている椿に視線を向けた。

「そういえば、宇野さん。伊野家を対処してくれたことには感謝していますが、私にはその必要はありません」

椿は何も言わず、ただ奈央と堯之が去るのを見つめていた。彼の周囲からは、誰も近づけないほどの冷たい雰囲気が漂っていた。

堯之の車の中で、奈央は窓越しに椿の険しい表情を見て、口元がほころんだ。

栄介を殴りつけて気分が90%回復したというのなら、今この瞬間、椿の不機嫌な顔を見て、彼女の気分は100%に戻った。

伊野家を対処することで、悦子が犯した過ちが帳消しにできると思っているなんて、椿も随分甘い考えを持っているものだ。

「何を考えてるんだ?」

堯之は奈央をちらりと見て、彼女の機嫌が良いことを感じ取った。

奈央は窓の外から目を戻し、運転している堯之に
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