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第89章 大旦那様がどんなもので喜ぶか知っている

泉ヶ原はそこなりに規模のある街のわりには、奈央は頻繁に椿と鉢合わせてしまった。奈央はこのことで、自分の運の悪さを嘆いた。

何感を感じたかのようで、椿も彼女にいた方向に振り向いた。不意に、彼女と目を合わせた。

その瞬間、椿の心の中での感情は複雑に絡んでしまった。

「霧島さんと彼女のお友達だね」

伊野百恵も、椿の視線の方向を辿っていたので、少し離れていた席に座っていた奈央の姿を見た。

この頃には、奈央はもう自分の目線を回収して、皐月と会話を続けた。

「皐月は店の定番に詳しいから、注文はお任せするよ。私あまり好き嫌いがないから」

「うん、任せといて」

皐月もこれ以上の遠慮はしなかった。お店の出しているものには、確かに彼女のほうが詳しかった。

二人とも、一つ手前先に座っていた椿や伊野百恵のことを気に留めていなかった。まるで、なんの関わりもなく赤の他人のように扱った。

「椿、挨拶しに行こうか」

伊野百恵は自らの提案で、椿の態度を試した。

椿は頭を振って、「いいの」と答えた。

椿は奈央が自分のことを嫌っているのをはっきりと分かっていた。昨晩、奈央に言わられたこともまだ鮮明に響いている今、また粘っていくのは、厚かましいのだ。

お爺さんの言い伝えについては、これはきっと失望させることになるだろうと椿は思った。

食事のあと、皐月は奈央を連れて、下の階の商品売り場にプレセントを買いにいた。二人が先に入ったのは玉を売り捌いているお店だった。

「霧島さん、私はお年寄りなら宝石や黄金の飾り物より、石や玉のほうがいいと思いますが。どう思いますか」

なかなか決められないから、皐月は奈央に決定権を投げた。

奈央は反論せずに言った。

「まずは中に入ろうか。見てそれだと思わせるようなものがあるかどうかを確かめないと」

「うん、そうですよね」

二人はこれでそのお店に足を踏み入れた。ただ、入ったばかりに、聞き覚えのある声が岸た。

「椿、この玉の仏像はどう思う?宇野お爺さんが喜ぶそうなものか」

伊野の尋ねる声が二人の耳に入ってきた。

彼女たちがちょうど店に入った突端、椿と伊野百恵は足音がしたので思わず振り向いて、彼女たちの姿を目で取り押さえた。これでは、もう見て見ぬ振りはできないのだ。

「あら、霧島さん、ここで会うなんて。霧島さんたちも玉をお買い上げに?」

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