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第90章 それは実に残念だな

皐月がまだ驚きから回復できていなかったうち、傍らにいた伊野は奈央の言葉を聞いて、思わず口を挟んだ。

「霧島さんは、宇野お爺さんの好みを知っている?」

「私は大抵なお年寄りが好きそうなものを知っているだけ」

奈央はそう答えた。

伊野は奈央のその言葉を信じた。奈央はきっと宇野家の大旦那様を知らないだろう。知らない人の好みがわかるはずがないのだ。

しかし、彼女の側にいた椿はそう思わなかった。

結婚していたその二年間、彼は一度も奈央とはあっていなかったが、お爺さんはよく奈央とあっていた。だから奈央がお爺さんの好みを把握していても、おかしくはなかった。

奈央は椿が自分のことを見ていたその視線をシカトして、皐月の手をとって店をでた。

「行こうか、プレゼントを買いに」

「うん」

奈央に頷いた後、皐月は、また今度という言葉のかわりに愛想よく椿や伊野に手を振った。

彼女たちがあと一歩で店を出たところに、伊野は急に口を開いた。

「椿、宇野お爺さんの誕生会だけど、霧島さんを招待するつもりか」

店の門前に来た奈央をその言葉で、足を止めた。

あの二年間で彼女は大変世話になっていたので、大旦那様の誕生会なら、彼女は参加する気でいたが、呼ばれていなかったのに、押し付けるの図々しいのだ。

「霧島さんはさぞ忙しいでしょう。行けそうにないと思うが」

椿には到底彼女を誘う勇気がなかった。大勢の人の前では、彼女と喧嘩したくはなかった。

伊野を惜しそう顔で言った。

「それは実に残念だな」

奈央はこれからの二人の話の続きを聞かないことにした。椿があんなことを言い出した後、彼女は皐月を玉の店から連れ出して、あの二人の視界から消え去った。

店の外に来て、奈央の機嫌が悪いのを察して、彼女は奈央だけが聞こえる音量で聞いた。

「霧島さんは、宇野家の大旦那様の誕生会に参加したいのですか。それなら、私の友人としてなら、問題なく行けますが」

「いいのよ」

奈央は頭を振った。皐月は確かに奈央の手助けがしたいのだが、彼女の身元が割と敏感だったので、下手したら実家にもそのことで危害を食らってしまうのだ。

すぐ、奈央は皐月を文房四宝の専門店に案内した。二人はその店に入った。

「お二人さん、何をお買い上げしましょうか」

店員さんは親切に挨拶してきた。

奈央は店員の顔を見て言った。

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