椿は窓の外から視線を戻し、その質問にすぐには答えなかった。「百恵、愛情はどういうものだと思う?」彼は突然問いかけた。それは、百恵の質問とはまったく関連のないように思える返答だった。百恵は心が震え、信じられないように彼を見つめた。「あなた……彼女に恋してるの?」「わからない」椿は首を振った。彼は本当にわからなかった。「最初はただ彼女に興味があっただけだった。でも、次第に自分でも何が理由なのか分からなくなっていた」彼はコーヒーを手にし、ゆっくりと話し始めたが、その一言一言が百恵の心に突き刺さり、痛みを感じさせた。しばらくして、百恵はなんとか落ち着き、不安を抑えながら言った。「昔のあなたは私に、愛情なんて信じないって言ってたよ。世の中の愛は全て偽物だって」「ああ」椿も反論しなかった。もし奈央に出会っていなければ、彼も自分の長年死んでいた心が再び動くことになるとは思わなかっただろう。「椿、それは気のせいかもよ」百恵は口を開き、椿の視線を受けながら続けた。「彼女に対する感情は恋愛感情だと勘違いをしているかもしれない。単に好奇心か一時的な気の迷いだってあり得るでしょ?」「確かにそうだ」彼はうなずき、その可能性を認めた。その様子を見て、百恵はほっとした。まだ完全にハマっていないようだった。だが、このままではいけない。いつか椿は完全に彼女に心を奪われたら、彼女が入れるチャンスは二度とこないだろう。半時間後、栄介がレストランに到着し、椿を見ると本能的に百恵の後ろに隠れた。彼は椿を少し恐れていた。椿は彼に冷たい一瞥をくれただけで、他には何もしなかった。百恵は彼の手を引いて座らせ、「あとであの子が来たら、ちゃんと謝るのよ。いいわね?」と言った。「ああ、わかった」栄介は頷いたが、その口調は極めて投げやりだった。五分後、奈央が現れた。「こんにちは」百恵は立ち上がり、奈央に手を差し出した。「栄介の姉、伊野百恵です」奈央は軽く会釈し、「霧島奈央です。こんにちは、伊野さん」と答えた。彼女は百恵と握手することなく、相手の顔に一瞬浮かんだ戸惑いを気にすることもなかった。今日ここに来たのは友達を作るためではなかった。「霧島さん、今回の件は栄介が悪いでした。私からも厳しく叱り、二
最初から最後まで、奈央は何も言わず、まるで部外者のように彼らのやり取りを見守っていた。三人の視線が彼女に向けられると、奈央は微笑み、「伊野さんがこんなに誠意を見せてくださっているのに、私が謝罪を受け入れないなんて、礼儀知らずだと思われてしまうでしょう」と言った。「気に入らないなら、受け入れなくてもいい」椿が隣で言った。奈央は無関心そうに首を振り、「とんでもございません。伊野さんがもう謝罪しました、そう簡単にできることじゃないですから」と答えた。彼女の言葉に、栄介は軽く笑いをもらし、その通りだと言わんばかりの表情を見せた。奈央はこの姉弟の面白さを感じた。「姉さん、トイレに行ってくる」と、栄介はコーヒーのシミがついた自分の服を見て、恨めしげに言った。百恵は頷き、早く戻ってくるようにと彼に言った。彼の背中を見送った百恵は、目の前の奈央に視線を戻し、「霧島さんは運がいいですね。椿を動かせるなんて、普通の人が得られる待遇ですよ」と皮肉交じりに言った。彼女の言葉に、奈央は平然とした顔で答えず、椿は少し不機嫌そうに「百恵、いい加減にしてくれ」と言った。百恵?奈央の目が椿と百恵の間を行き来し、この二人は親しいようだと感じた。百恵は彼女の疑問を感じ取ったのか、自ら説明した。「伊野家と宇野家は代々の付き合いがあるんです。私と椿は子供の頃から一緒に育ってきて、関係がとても良いから、つい言葉が砕けてしまうのよ。霧島さんは気にしないでくださいね」なるほど、幼馴染というわけか。奈央は心の中で思った。悦子が去ったばかりなのに、椿の周りにはすぐに幼馴染が現れる。奈央は悦子が感じていた不安の原因が少し理解できた。奈央にじっと見つめられた椿は、まるで針の筵に座っているかのような気持ちになり、彼女に誤解されないように、「ただの友達だ」と説明した。「私に説明する必要はありません。宇野さんとは別に親しい関係ではないので」奈央は彼を一瞥し、全く気にしていない様子だった。椿は顔をしかめ、対面の百恵は興味深そうに笑みを浮かべた。どうやら二人の関係はそれほど良くはないようだ。「お化粧直しにトイレに行ってきます。二人でゆっくり話してください」奈央はそう言って立ち上がり、トイレへと向かった。男子トイレの中で、栄介はコーヒーのシミ
「謝罪を受け入れたくないなら、無理に我慢しなくてもいいのに」椿が口を開き、穏やかな口調で言った。奈央は軽く笑い、「あなたが言った通り、伊野家は関谷家とは違うわ。一時的にはどうしようもできないし、謝罪を受け入れないなら他に方法があるの?」「僕が手伝えるよ」彼は言った。奈央はまるで怪物でも見たかのように彼を見つめ、二歩後ろに下がった。「相手は幼馴染なんでしょ?そんなふうに裏切るのって、本当にいいの?」「ただの友達だ」椿は真剣な表情で言った。「幼馴染じゃないんだ」しかし、奈央は全く気にしなかった。「宇野さん、いいの。前も言ってたよね、私たちそんなに親しくないもの」「霧島……」「椿!」百恵が、栄介を支えながらトイレから出てきた。彼女の顔色は悪かった。「栄介が誰かに殴られたわ」この時の栄介は、鼻が腫れて顔が青あざだらけで、まるで何かの塊のように見えた。奈央は口を押さえ、思わず笑いそうになった。栄介はゆっくりと意識を取り戻し、次の瞬間、奈央を指差して怒鳴った。「お前だ!お前が後ろから手を出したんだろう?」「伊野さん、言ってる意味が分かりません」奈央は無邪気に目をぱちぱちとさせた。百恵も奈央に視線を向けた。彼女も奈央がやったのではないかと疑っていた。この場では、栄介に恨みを持っているのは奈央しかいないし、陰で手を出すことも不可能ではなかった。「とぼけるな!お前以外に誰がいるんだ!」そう言いながら、彼は奈央に向かって殴りかかろうとした。もちろん、椿が彼に奈央に触れる機会を与えるはずがなかった。彼は栄介を止めて、「証拠もないのに、彼女だと言うのか?伊野、頭が悪いなら、僕が助けてやってもいいんだぞ」栄介は奈央を恐れていなかったが、椿を恐れていた。彼が口を開くと、栄介は百恵の後ろにすぐに隠れ、恨めしそうに奈央を見つめた。百恵は怒りを抑え、冷静に言った。「監視カメラを確認しましょう。誰であろうと、カメラには嘘がつけませんから」「い……」「どうぞ」奈央は椿の言葉を遮り、淡々とした表情で、まるで何も後ろめたいことはないといった風情だった。それを見て、椿はそれ以上何も言わなかった。奈央がこれほど自信を持っているのなら、監視カメラで証拠が出ないことは確信しているのだろ
「伊野さんと友達になれたら光栄です」奈央は微笑みながら、二人の姿が消えるのを見送った。相手の姿が消えると同時に、奈央の顔から笑顔も消えた。それを見た椿は、無力感を覚え、首を横に振った。「嫌なのに、なんで受け入れたんだ?」「彼女がわざわざ申し出てくれたのに、私が断ったら、器が小さいと思われるよ」奈央は彼を一瞥し、席を立ってレストランの外へ向かった。椿はその後を追い、もうこれ以上は何も尋ねなかった。どうせ女同士の複雑な感情なんて、彼には理解できないものだ。「どこに行くんだ?送っていくよ」「宇野さんには迷惑をかけません。迎えが来ていますから」そう言っているうちに、白いスポーツカーが奈央の前に停まった。堯之の顔が現れた瞬間、椿の表情は目に見えて険しくなり、冷ややかな視線を投げかけていた。「車を変えたのですか?」奈央は驚いた。彼が以前乗っていたのは赤いスポーツカーだったはずだ。「控えめにしろって言われただろう?これなら十分控えめだろ?」堯之は目の前に停まっている世界限定版のスポーツカーを指し、そう言った。奈央は困った表情を浮かべた。色は確かに控えめだったが、実際には前よりも目立っている気がした。「まあまあですね」彼女は苦笑いを浮かべ、それ以上は何も言わなかった。堯之は紳士的に車のドアを開け、「どうぞ」と言わんばかりの仕草を見せた。奈央はそのまま乗り込もうとしたが、片足を車内に入れたところで突然振り返り、少し離れたところに立っている椿に視線を向けた。「そういえば、宇野さん。伊野家を対処してくれたことには感謝していますが、私にはその必要はありません」椿は何も言わず、ただ奈央と堯之が去るのを見つめていた。彼の周囲からは、誰も近づけないほどの冷たい雰囲気が漂っていた。堯之の車の中で、奈央は窓越しに椿の険しい表情を見て、口元がほころんだ。栄介を殴りつけて気分が90%回復したというのなら、今この瞬間、椿の不機嫌な顔を見て、彼女の気分は100%に戻った。伊野家を対処することで、悦子が犯した過ちが帳消しにできると思っているなんて、椿も随分甘い考えを持っているものだ。「何を考えてるんだ?」堯之は奈央をちらりと見て、彼女の機嫌が良いことを感じ取った。奈央は窓の外から目を戻し、運転している堯之に
「わかった」しばらくして、奈央は結局うなずき承諾した。ただのパーティーに出席するだけのことだし、特に問題はないと思った。それに、堯之への借りも返せるなら、一石二鳥だ。堯之は笑顔を見せ、上機嫌で「おやすみ、いい夢を」と言った。奈央は車を降り、マンションへ向かいながら手を振り、すぐに堯之の視界から消えた。堯之はいつものように、すぐには去らず、タバコを吸いながら夜空を見上げた。今夜は星がたくさん出てるな、と心の中で思った。遠くから車の音が聞こえ、彼はその方向に目を向けた。今度は椿が車から降りることなく、窓を下げて皮肉たっぷりに言った。「お前、毎回彼女を送った後、僕が来るのを待ってるのか?」「もちろん」堯之は否定せず、眉を上げて言った。「お前が不機嫌になるのを見るのが、一番の楽しみだからな!」椿「……」「だが今日はちょっと遅かったな。いつもなら奈央ちゃんを家に送って10分以内にお前が現れるのに、今日は20分も経ってるぞ」堯之は言った。椿は彼が病んだと思ったし、その病は結構重症だと思った。「面白いのか?」椿は彼に尋ねた。以前ほど怒りを感じることはなく、今ではかなり冷静だ。「霧島はお前を好きにならないし、僕を怒らせることもできない。今のお前、滑稽だと思わないか?」奈央を知れば知るほど、椿はますます確信した。堯之は彼女の好みのタイプではない、と。予想通り、彼がそう言うと、堯之の軽薄な態度は瞬時に消え、冷酷な表情になった。「確かに今は好きじゃないかもしれないが、少なくとも嫌われてはいない。「椿、お前こそ彼女に執着してる方が、よっぽど滑稽だろう?」堯之の反撃も負けず劣らず鋭く、二人の間にはすぐに緊張が走り、一触即発の空気が漂った。「可愛さ余って憎さ百倍って言葉を知らないのか?彼女が僕を嫌うほど、僕のことを考えているってことだ。分かるか?」椿は言った。堯之は鼻で笑った。「本気か?」「もちろん」椿はうなずいた。「ふっ」夜の静けさの中で、軽い笑い声が響き渡った。奈央は、夜食を探しに出てきたとき、そんな馬鹿げた話を聞くことになるとは思わなかった。椿はハンドルを握る手に力が入り、陰影の中から歩み出る奈央を見た瞬間、彼の頭皮はピリピリとした。あっという間に、奈央
夜道、露店。堯之は酒杯を手に持ちながら、頭の中でさっきマンションの前で奈央が椿を指さして怒鳴っていたシーンを思い浮かべていた。さらに印象的だったのは、奈央が最後に言った一言だ。元妻?彼は椿が結婚して離婚していたことは知っていたが、まさか相手が奈央だったとは思わなかった。彼は困惑していた。椿が明らかに奈央に対して気持ちを持っているように見えたのに、なぜ離婚したのか?そんなことを考えながら、目を向けると奈央が向かいに座っており、まだ不機嫌そうな顔をしているのに気づき、笑いながら言った。「まだ怒ってるのか?」「怒ってません。ただ、宇野さんの頭がどうかしてると思っただけです」私があいつに気がある?バカバカしい。「俺もおかしいと思うよ」堯之は同意し、さらに言った。「でも一つだけわからないことがある。奈央ちゃんは本当に椿の元妻なの?」奈央は軽くうなずいた。それを否定する理由はなかった。「じゃあ、なんで離婚したんだ?」堯之はそこが理解できなかった。「彼には愛情溢れた妹や、幼馴染がいるんですよ。私みたいな妻の存在なんて忘れてしまうに決まってます。離婚しない方がおかしいです」奈央は口を曲げて皮肉を込めて言った。堯之はそうは思わなかった。男は男のことをよくわかるものだ。「彼は冷たかったのか?」堯之は尋ねた。奈央は首を振り、数杯の酒を飲んだせいか、堯之の質問に隠すことなく答えた。「結婚して2年間、彼とは一度も会わなかったから、良いも悪いもないわ」堯之はその話を聞いてすべてが理解できた。椿は最初、奈央のことを全く知らなかったのだろう。そして、後から彼女が自分の元妻だと知って、心を動かされたのかもしれない。堯之は酒を飲みながら、笑いそうになった。椿、お前にもこんな日が来るとはな。ついさっきまで怒りに燃えていた椿が、最後には何も言わずに去っていった様子を思い出すと、なんとも言えない爽快感が湧いてきた。堯之は奈央に目を向け、淡々と笑いながら言った。「本気で俺と付き合う気はないか?俺と付き合えば、椿はきっと悔しがって死にそうになるだろうな」奈央は冷たい目で彼を一瞥し、冷淡に言った。「彼が悔しがろうがどうしようが、私に関係のないことです。興味ないし」「そうか?」堯之は眉
椿はリビングを見回し、ここが2年前と何も変わっていないように感じたのは、ただの錯覚だろうか。彼は小林さんに目を向け、尋ねた。「この2年間、屋敷は改装されなかったのか?」「いいえ、一度もありませんでした」小林さんは答え、さらに続けた。「以前、旦那様が電話で言っておりました。若……」小林さんは一瞬言葉を詰まらせ、椿と奈央がすでに離婚していることを思い出して、言い直した。「旦那様は、霧島さんに好きなように改装させてもいいとおっしゃいましたが、霧島さんは何もしませんでした」椿の表情がわずかに暗くなった。彼はその理由を理解していた。奈央は彼と同じように、この結婚に心から納得していなかった。最初から長続きさせるつもりはなく、だからこそ時間をかけて改装することなど考えもしなかったのだ。「この2年間、彼女は何をしていたんだ?」彼は急に奈央の過去に興味を持ち始めた。小林さんは少し驚きながらも、若旦那がなぜ離婚した後に奈央のことを尋ねるのか理解できず、しかし敢えて質問することもできず、正直に答えた。「霧島さんの日常はとてもシンプルでした。普段は家で花を育てたり、本を読んだり、たまに街へ出かけたりしていましたが、それ以外は特に何もしていませんでした」彼女は以前、奈央に椿を積極的に椿に会いに行くべきだと助言したことがあった。夫婦なのにずっと顔を合わせないわけにはいかないと。だが、その時奈央はただ笑って、「なんで私が彼に会いにいかなきゃいけないの?今がちょうどいいのよ、自由で」と言っただけだった。それだけなのか?椿は驚きを隠せなかった。彼の目には、奈央はそんなに家にじっとしていられる性格には見えなかったのだ。「彼女はいつも家にいたのか?」椿はさらに尋ねた。「はい、毎日家にいました。たまに遅くまで買い物に出かけても、必ず屋敷に戻ってきました。一度も外で夜を過ごしたことはありませんでしたよ」小林さんは答えた。彼女は良い妻だと思っていた。椿はしばし黙り込んだ。信じられない気持ちだった。彼は奈央のような性格なら、いつも外で忙しくしているはずだと思っていたのに、なぜ毎日帰ってきていたのだろうか?それ以上は何も聞かず、彼は上階の部屋を指さしながら言った。「彼女はどの部屋に住んでいた?」「2階の右手の最
ガンガンと鳴き出したスマホの着信音は、椿を黙思から引っ張り出した。お爺さんからの着信だったと分かって、椿は迷いせずに電話に出た。「三日後はこの老いぼれの誕生会じゃ、何をプレゼントでワシをサープライズする気だ?」「お爺さん、事前にプレゼントのことを嗅ぎ当てるのは反則だよ」椿は完全に呆れた。「これのどこがルール違反のじゃ?前もって聞いておかないと、椿から面白くないプレゼントをもらったら困るじゃよ、その時はどうしてくれるの?」宇野大旦那様は、片手で受話器を取って、もう片方の手は、長く延びていた髭を捻りながら、ニコニコと笑っていた。この前、オークションで入手したご老体南方先生の絵画のことを思い出して、椿は自信ありげに言った。「お爺さんがきっと喜ぶことをお約束する」「そんな甘ったれな約束でワシを黙らせなくともいい」大旦那様はしっかりと椿を叱った。「今回の誕生会、ワシの望みは一つだけじゃ」「なんでしょう?」自分のお爺さんのことだったと、椿はずっと気長な態度を取った。お爺さんのほうから望んでいたものを話してくれることは、逆に都合がよかった。「ワシの誕生会には、奈央ちゃんと一緒に来ることじゃ」大旦那様は遠慮せずに言った。額の八の字を寄せていた椿は、少し沈吟してから返事をした。「霧子さんに来て欲しければ、ご自分に電話をしてお誘いすることをお勧めする」「ワシは椿、お前が彼女を連れてこいと言っているのじゃ」自分の誘いなら、奈央はきっと断らないことくらい、大旦那様はよく分かったいたが、お二人に互いへの理解を深める機会を作るにな、椿に動いてもらわないといかなかった。けど、椿は勝手に、奈央はお爺さんの誘いに応じる可能性があったが、必ず自分からの誘いを断るに違いないと決めつけた。椿がなかなか返事しなかったことに、老人は咄嗟にお怒りになった。「この薄情もの、ワシのたった一つの望みを叶えてくれないなんて?なんとしてもこのワシに逆らうのか?!」「お爺さん......」「どこまで奈央のことを嫌っていても、ワシの知ったっこじゃあるまい。椿、お前は必ずしも己の働きで奈央をワシの誕生会に誘うのじゃ」老人は彼の言おうとしたことを押し返した。椿はお爺さんの言葉で苦笑した。自分はとても奈央のことで好き嫌いを言えた