共有

第76話 お前に免じて

宇野グループ。

「宇野様、伊野グループの株がストップ安になりました」

言いながら、海斗はタブレットを差し出した。

椿は一瞥し、満足げにうなずいた。

「伊野家の動きを監視しろ。彼らが引き受けるプロジェクトは全て、こっちに回せ」

「分かりました」

海斗は頷いたが、心の中では伊野グループの行く末を祈らずにはいられなかった。宇野様を怒らせたら、もう終わりと同然だ。

その時、オフィスのドアをノックする音が響いた。

海斗がドアを開けると、そこに立っていた人物を見て驚愕した。

「い…伊野さん」

「お久しぶりね、道上さん」

百恵は微笑みを浮かべて言った。そして、「椿はいる?」と尋ねた。

「いますよ」

海斗はそう答え、後ろの椿を振り返った。

百恵はオフィスに入り、デスクの後ろに座っている男性を見て微笑んだ。

久しぶりに会うが、この人は相変わらず格好いい。

「椿」

彼女は呼びかけた。

男性は眉をひそめたが、大した感情は見せずに言った。

「どうして来た?」

「海外の仕事が一段落したから、戻って様子を見に来たの」

彼女は答え、椿の反応を気にすることなく微笑んだ。

「昼食でも一緒にどう?」

彼女は再び誘った。伊野家の件が心配だが、彼女は椿をよく知っているので、焦る必要はないと理解していた。

椿は少し迷ったが、結局うなずいた。

「僕が奢るよ」

「いいわね」

そう言いながら、二人は一緒にオフィスを出た。

海斗は二人が去っていくのを見送りながら、なぜか不吉な予感を覚えた。

「伊野さんと宇野様の関係って…」

海斗はつぶやいたが、すぐに首を振った。

「どうしても理解できない」

レストランで、百恵は食事をしながら微笑んで言った。

「やっぱり泉ヶ原の料理が一番口に合うわ」

「そう思うなら、ここに残ればいい」

椿が答えた。

「うん、考えておくわ」

彼女はうなずき、まるで真剣に検討しているかのように見えた。

食事が半ばに差し掛かったところで、百恵はふと思い出して言った。

「そろそろ宇野の爺様のお誕生日ね?」

「ああ、来週だ」

椿はうなずいた。

「ちょうどいい時期に戻ったわ。久しぶりに宇野の爺様にお会いしたいけど、お元気かしら?」

彼女は親しげに尋ね、椿も特に不自然さを感じなかった。

椿は箸を置いてから答えた。

「元気だ」
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status