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第2話

人々は、死後の魂は生前に最も恋しい人のそばに留まると言うらしい。

俺の魂は薫のそばで漂っていた。

この三ヶ月間、斎田が俺の寝間着を着て、俺の物を勝手に使い、薫と同じベッドで寝るのを見ていた。

全然家事していなかった薫は、毎日早起きして斎田に愛情たっぷりの朝食を作っていた。さらに斎田の下着を手で洗っていた。

三ヶ月、九十日以上の日夜。俺の妻は初恋の相手とべったりとくっついていた。

最後の一歩までは、ほとんどやれることは全部やった。

俺の魂は彼らの周りを漂い続け、気持ち悪すぎて一分一秒でもいいからこの二人から離れたかった。

今電話で姉の知子の言葉を聞いた後、薫は眉をひそめた。

「姉さん何を言っているんですか?急用で勝俊に連絡したんで、すぐに電話を代わってください!」

姉は一瞬ためらい、苦しそうに言った。

「勝俊——君の夫は、もう死んでいると言った。日本語がわからないのか?」

「くそったれ!」

薫は怒りが収まらず、思わず汚い言葉を口にした。

「あなたたち頭おかしいんじゃない?私にこんな下らない嘘ついて楽しいの?わざとこうして私に罪悪感を抱かせるつもり?演技にしても下手すぎますわ」

「勝俊に伝えてください。彼が戻ってこないつもりなら、一生戻ってくるなと。もう外で死んだほうが一番いいかも」

薫は憤然として電話を切った。まだ怒りが収まらないから、部屋に掛けてあった結婚写真が入る写真立てを叩き割らせた。

斎田は急いで薫を止め、自分の胃病はたいしたことじゃないと宥めた。そして自分のために夫婦喧嘩にならないでと言った。

薫はさらに怒った。

斎田でさえ自分に優しくできるのに、夫である勝俊は、気分を損ねただけで三ヶ月も家に帰らず、電話すら出てくれなかった。

薫はため息をつき、悲しそうな顔つきで斎田の胸に飛び込んだ。

「あの時、もし両親が私たちのことを認めてくれたら、私たちはすでに結ばれていたかもね」

「丹吾さん、あなたは勝俊より一万倍もいいよ」

たとえ魂になっても、存在しないはずの心臓が痛んだ。

薫は忘れていたかも。彼女がまだ貧乏だった時に、斎田は留学を理由にして彼女を避けていた。逆に俺が五つのバイトも掛け持ちして彼女の起業資金を支援し、最も辛い時期を共に乗り越えてきたのだ。

しかし、薫は感謝の気持ちを忘れ、俺たちが結ばれたのが全部親が無理やりにそうさせたからと理由づけて、自分を苦しませていた。

結婚して最初の2年間、暑くても自分のために冷たい水を買うのを惜しんでいたのに、彼女のためなら数百円もする高価なアイスクリームを惜しまなかった。

そして寒くなってきて、俺は手袋を買う金を惜しんでも、彼女のために一番暖かくてフィットするダウンジャケットを買ってあげた。

友達はみんな、一人の女のためにそんなことをするなんて馬鹿げていると笑っていた。

俺は何も反論しなかった。

あの頃の俺はただ単純だった。たとえ氷の塊でも手で握ったら、絶対温められる日が来ると信じていた。

でも、俺は間違っていた。

結婚して何年も経つのに、彼女はずっと俺に対して冷たかった。

別に悪いことをしてくることではなく、ただ二人の間に見えない壁があるように感じていた。

彼女が初恋の相手である斎田が帰国したその日まで、俺は気づかなかった。

薫も誰かを愛することができるんだと。

彼女は好きな人に会うと、目を細めて笑い、愛が目から溢れ出すかのように輝いていた。

斎田の出現により、薫に対する俺のすべての思いが笑い話になってしまった。

そしてその日から、薫は家に帰らなくなったことが頻繁になった。

最初の時に仕事の都合とかでごまかしていたが、時間が経つにつれ、言い訳を探してくれようとする思いやりもなくなりつつあった。

「勝俊、最近あなたはいつも疑心暗鬼になっていることに気づいた」

「たとえ斎田が私の初恋だったとしても、それはもう過去のことだから。あなたがこんなに疑って騒ぎ出すのは、みんなを狂わせたいからなのか?」

「勝俊、あなたって本当に理解できない人だ」

広い会社の中で、薫は俺に一切の顔を立ててくれなかった。

そうだよな、彼女は俺の助けを借りて、市で最も若い女性社長に成長した。

上まで行った人は、最初の時に一緒に苦労してきた人を思い出す気力も無かろうか?

斎田と薫は若い頃からの情があり、さらに斎田は巧みな言葉で彼女を喜ばせることができる。

斎田と比べると、俺は全く敵わなかった。

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