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第0012話

「じゃあ、どうしたいの?」

紗月は顔を上げ、白川クラブで見せたあの頑固な表情のまま言った。「父はもう死んだ!私たちも離婚した!涼介、あんたはいつまで私に付きまとうつもり?」

「かつて佐藤国治は俺の両親の命を奪った。今、彼が死んでも、それで命の借りは返しきれない」涼介の低い声は、まるで彼女に刑を宣告しているかのように響いた。

彼は紗月の顎を強く掴み、その力で骨がずれる音が聞こえた。しかし、紗月は一言も発しなかった。

その瞬間、涼介の厳しい視線に混じる嫌悪の中で、紗月は何かを悟ったかのようだった。

一命をもって一命を償う。

そうか、まだ涼介に命の借りがあったのだ。

「そういうことなら、私の命で償ってあげるわ。どう?」彼女の白い唇が震え、涙を堪えたその姿は痛ましく、涼介の顔にも一瞬、微かな動揺が見えた。

もしかしたら、紗月は熱が頭に上ったのかもしれない。あるいは、極度に追い詰められて、一瞬自信を失ってしまったのかもしれない。

この瞬間、すべてに絶望していた。

涼介の肩越しに、猛スピードで近づく車が見えた。

涼介が気づいた時にはすでに遅く、「ドン!」という激しい音が響き、車と彼女の体がぶつかる音が聞こえた。

車は急ブレーキをかけ、耳をつんざく音と共に停車し、運転手が慌てて車から降りた。地面には血まみれの女性が倒れていた。

「ひ、人が!誰か助けて!」運転手は叫んだ。

スマホで『119』に電話しようとしたが、突然、大きな力で押しのけられた。

涼介はすぐに駆け寄り、血を流す紗月を抱き上げ、その冷たい気配に周囲は凍りついた。

彼女の頑固さは彼の予想をはるかに超えていた。

「すぐに車を回せ、病院に行くぞ」

紗月はぼんやりとした意識の中で、涼介の香りがわずかに感じられた。

彼の低い声と共に、粗い指が彼女の顔に触れ、「紗月、目を覚ませ。眠るな」と命じた。

しかし彼女は、疲れ果てていた。目を閉じると、逆光の中で彼女の父が手を差し伸べる姿が見えた。「紗月、パパは君に会いたい。パパのところにおいで......」

紗月の目はゆっくりと閉じられた。

彼女の血に染まった指が涼介のスーツを掴み、しわと血痕を残したまま、力なく落ちた。涼介は険しい表情で運転手に命令した。「もっとスピードを上げろ」

病院で、8時間にも及ぶ手術の後、紗月はようやく目を覚ました。

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