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第0016話

紗月は車椅子に座り、口元に嘲笑を浮かべた。

かつての裕福な暮らしをしていた頃、こんな日が来るなんて一度でも想像しただろうか?

今や行き場のない敗残者のように......

空がだんだんと曇り始め、細かい雨が空から降り注ぎ、紗月の体に一滴ずつ落ちてきた。

雨が強くなり、彼女は慌てて車椅子を押し、近くの雨宿りできる場所を探し当てた。

「大丈夫ですか?救急車を呼びましょうか?」

スーツ姿の男性が探るような表情を浮かべながら、紗月の前に立っていた。

紗月は一瞬、彼の顔を見て驚いた。どこかで見た顔だ。

そして、彼女は男性の後ろを見た。

目に入ったのは煌びやかで豪華な装飾だ。

「白川山荘」の四文字が、静かに大きな門の上に掲げられている。

「ここよりも、もっと佐藤さんにふさわしい仕事場なんてないんじゃないかしら?」

温香の言葉が、紗月の耳に再び響き渡り、彼女はついにある決意を固めた。

涼介の影響で、今ではどの会社も彼女を雇おうとはしない。

だが、彼女には数億円もの借金がある。ここ以外に行く場所なんてない。

温香の言ったことが、結局正しかったのだ。

紗月は両手を握り締め、深い恨みを抱きながらも、心の奥底には絶対に負けたくないという強い意志があった。

彼女は佐藤家の人間だ。

どこで倒れても、必ずそこで立ち上がってみせる!

心に決意を抱き、紗月は胸を張った。車椅子に座っていても、その気迫は圧倒的だった。

「こんにちは、仕事を探しています」

白川山荘のオフィスで、ママさんはデスクの向こうから、かつての名家の娘を細めた目で見つめていた。

彼女の店にはどんな女性もいたが、没落したお嬢様は珍しい。

紗月が彼女にもたらすものがあると、ママさんは直感で感じ取っていた。

「佐藤さん、本当に覚悟はできていますか?」

紗月は軽く微笑み、「覚悟がなければここに来ないわ」と答えた。

ママさんはシワだらけの手で、契約書を紗月の前に差し出した。

「では、この書類にサインしてください」

紗月は書類を手に取り、ざっと目を通した。そこには一方的な契約条項ばかりが並んでいた。

「私は前も言ったはずです。私は接客だけ、体を売る気はないと。なのに、この契約書の条項はどういうことですか?」

ママさんは軽蔑の表情を浮かべた。

いいご身分を保とうなんて。行き場のない女の
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