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第0021話

田中はそれ以上口を挟むことはできず、気まずそうに黙り込んだ。

彼の心中を察したように、涼介の背後に立っていた秘書が低い声で付け加えた。「田中さん、ご心配なく。藤崎家とは、こちらでしっかりと話をつけるので」

田中は、首を縦に振り続けた。「あ、はい、もちろん。中川さんの仰る通りにするよ」

取調室。

扉が突然開かれ、女性警官が依然として淡々とした様子で言った。「取り調べは終了です。出てください」

紗月の怒りは、あたかも宙に消えたかのように収まらざるを得ず、彼女は黙って従うしかなかった。

だが、あのガラスの向こうに、彼女を見つめる視線があるような気がしてならなかった。

どこか冷たく、馴染みのある感覚だった。

扉を出る直前、紗月は一瞬だけ振り返り、ガラスの向こうを見つめた。涼介はそのガラスの裏側で、紗月を見ていた。二人の視線が黒い一方通行のガラスを挟んで交錯していた。

ただ、違うのは、紗月はその相手が誰か分からないが、涼介には彼女の頑なな瞳が見えていたことだった。

何かが胸に突き刺さるような感覚が走り、涼介は初めて、紗月の目を見た時、自ら視線を外した。

紗月が連行された。

その姿を見つめながら、彼の心はしばらくの間、乱され続けた。

何かが、もうすっかり変わってしまった気がしていた。

紗月は子供を失った。

彼らの子供を失った。

その命が一つの償いとなったのかもしれない。

涼介は目を閉じ、再び感情を切り離した冷淡な表情に戻ると、取り調べ室の扉を押し開けて外に出た。

田中は部下たちを引き連れ、涼介を出口まで見送った。

その時、耳を裂くようなタイヤの音が響き、真っ赤なレーシングカーから一人の男が降りてきた。

それは怒りに満ちた表情の北川だった。彼は涼介を目にするや否や、拳を振り上げて殴りかかった。

「涼介!いつになったら彼女を解放するつもりだ!お前に出会ってから、一日でも幸せに過ごしたことがあるか!?良心が痛まないのか!?」

陸の目には、涼介と温香が、最低な男女にしか見えなかった。

涼介は素早くその拳をかわし、冷たい目で陸を見つめ返した。

これが彼女が同居している男か?

ただの感情的な富豪の息子にすぎない男が、彼女にそれほどまでに価値を与えているのか。

「警察署の前で何を騒いでいるんだ!」

田中はこの光景を目にして、部下に指示を出
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