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第0009話

紗月は昼食をかき込み、気持ちを切り替えてすぐに次の会社へ面接に向かった。

彼女は一社だけにこだわるつもりはなく、複数の企業に履歴書を送っていた。次に向かった会社も、最初に面接した会社に劣らない規模だった。

面接が最後の段階に差し掛かった時、突然、オフィスのドアが開き、しなやかな姿が現れた。

「ここでも会うとはね。まさにどこへ行っても顔を合わせる運命かしら」温香は紗月を見下ろし、髪をかき上げながら冷笑した。「もう強がるのはやめなさい。この面接、通るわけないわよ」

「あなた?」紗月はバッグを掴み立ち上がり、温香と中年の面接官の間に視線を移した。「あなたたちは......」

温香は笑いながら、「紹介するのを忘れてたわね。彼は私の叔父よ」と答えた。

まるで顔にビンタされたかのような屈辱感が紗月を襲った。

面接の間中、彼らは彼女をただの見世物として眺めていただけだったのだ。

温香は傲慢に紗月の前に立ち、冷笑を浮かべながら言った。「本当にごめんなさいね。あなたが涼介の元妻だという事実がある限り、ここで働くことは絶対にないわ」

「分かりました」紗月はすぐに冷静を取り戻し、温香の言葉を遮った。「失礼しました」

彼女はこれ以上、温香に時間を無駄にするつもりはなく、彼女の肩をすり抜けて部屋を出た。

その対応は、温香の予想を超えていた。彼女は眉をひそめ、驚きを隠せなかった。

ビルの前で、紗月は冷たい風にさらされながら、薄着のまま立っていた。風が顔をかすめていったが、彼女はその冷たさを感じることはなかった。通り過ぎる人々も、彼女に見覚えがあるようで、ちらちらと視線を送っていた。

「佐藤さん」その時、温香がビルから出てきて、紗月を呼び止めた。

紗月が振り向くと、温香は彼女に一枚の名刺を差し出し、赤い唇を開いて微笑を浮かべた。「もし本当に仕事が見つからないなら、ここを試してみたら?きっとあなたにぴったりの場所よ」

紗月が疑問に思いながら名刺を受け取ると、そこには「白川山荘」の四文字がはっきりと書かれていた。

その四文字を見ただけで、紗月の体に寒気が走った。あの夜、自分が無謀にも侵入した場所が脳裏に蘇った。

温香の表情を見る限り、彼女もすでにそのことを知っているのは明らかだった。

紗月は名刺を指先で折り曲げ、捨てるべきか、破るべきか迷った。

この露骨な侮辱も、今の彼女にとってはまるで取るに足らない小事のように感じられた。紗月は軽く微笑みながら、ただ「ありがとう」と言った。

「ありがとう?」温香は一瞬、自分の耳を疑った。

しかし、すぐに言い返す言葉が浮かばなかった。

「紗月!」その時、レーシングカーがビルの前に派手に停まり、陸がヘルメットを取り、車窓から手を振っていた。

一日中レースをしていた陸は、休憩するや否や紗月を迎えに来たのだ。そして、偶然にも彼女を見つけることができた。

「悪いけど、迎えが来たので失礼するわ」紗月は温香に向かってそう言うと、彼女の嫉妬と不信に満ちた視線の中、悠々と陸の車の助手席に乗り込んだ。

「どこに行く?」陸は横目で彼女を見て尋ねた。

「どこでもいい。この場所を離れられれば」紗月は前を見据え、唇に微笑を浮かべて答えた。

「了解!しっかりつかまれ!」陸はすぐにエンジンをかけた。

スポーツカーの轟音は大きく、通り過ぎる女性たちの悲鳴が響いた。温香は拳を強く握りしめ、ほとんど歯ぎしりしていた。

「紗月、あなた......もう新しい男を見つけたの?」

しかも、その男は涼介に劣らない条件を持っているようだった。

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