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第0008話

数日間、紗月はその約250畳のマンションに滞在していた。陸は主寝室を彼女に譲り、昼間はレースに行き、夜は食事を持ち帰ってきた。

ベッドに横たわると、紗月はいつも涼介の鋭い視線や冷たい言葉を思い出し、そのたびに心が痛んだ。しかし、彼女は自分の感情を調整し、心を落ち着けるために努力していた。

佐藤家の家訓は「100年にわたる自己研鑽と絶え間ない成長」

彼女は自分を堕落させるつもりはなかった。

その日、紗月は洗面を終え、淡いメイクを施し、ビジネススーツに身を包んで、出かけようとしていた。すると、朝食を買って戻ってきた陸にばったり出会った。

「どこに行くんだ?」陸はすぐに彼女を引き止めた。

「面接の約束があるの」紗月はそう言いながらハイヒールに履き替え、陸に向かってウィンクしてみせた。「応援してね、陸くん」

「ちょっと、朝ご飯くらい食べていけよ」

「時間がないの」紗月は振り向くことなくハイヒールを履いたまま部屋を飛び出した。

陸は無力感を感じたが、紗月の強い性格をよく知っていた。彼女は決して他人に頼ることをしない女性だ。どれだけ言葉を尽くしても、彼女は自分の道を進む。

彼がすべきことは、ただ彼女を見守り、守ることだった。

紗月が向かったのは、世界五百強企業の一つで、市場営業のポジションだった。彼女は自分の容姿が優れており、営業職が最適だと考えていた。収入も早く得られるからだ。

面接官も彼女に大変満足しており、紗月の父親が商談に連れて行った経験もあって、彼女はビジネスの才能を持っていると感じていた。

「佐藤さん、あなたの履歴書は非常に優秀ですね。佐藤家のご出身なら、当然期待通りでしょう」部長は親しげな笑みを浮かべ、ペンを回しながら彼女を称賛した。「ただ、弊社の規模ではあなたにふさわしくないかもしれませんね」

紗月はすぐに彼の意図を理解し、「営業の基本給が低いのは知っています。でも私は報酬の高さにこだわりません。高いコミッションを目指して頑張ります」と答えた。

彼女の前向きな態度に、部長も納得し、面接は順調に進んでいた。

しかし、突然——

「部長、外線です」アシスタントがそっと告げた。

「すみません、佐藤さん。少々お待ちください。電話を取ってまいります」

紗月は礼儀正しく頷き、部長は面接室を出て行った。

しかし、数分後、彼は困惑した表情で再び戻ってきた。「佐藤さん、申し訳ありませんが、当社ではあなたを採用することができません」

紗月は予想外の展開に驚き、「どうしてですか?」と問いかけた。

「ええと......弊社の事情でして。あなたほどの方なら、必ずもっと良いところが見つかるでしょう」部長は本当の理由を言うことができず、ただ婉曲に断ることしかできなかった。

こうして、初めての面接は不合格となった。

紗月はサンドイッチをかじりながら、大きなビルの下のベンチに座っていた。

涼介以外に、こんなことをする人物は誰だろう?陰険な手段を使って妨害しているのは間違いない。

その頃、中川グループの社長室では、会議を終えたばかりの涼介が革張りの椅子に座り、アシスタントの報告を聞いていた。彼の眉間には冷たい影が差し込んでいた。

「彼女が面接に行って、落とされたのか?」

「はい、藤崎さんの指示です」アシスタントの神田は、涼介と紗月の夫婦関係がすでに破綻しているにもかかわらず、涼介が常に紗月の動向を気にしていることに疑問を抱いていた。

恐る恐る尋ねた。「中川さん、彼女を助ける手配をしましょうか?」

しかし、その言葉が終わる前に、涼介の冷たい視線が神田を見据え、彼は口を閉ざした。

涼介は椅子を回し、窓の外を見つめた。彼の脳裏に浮かぶのは、白川クラブでの紗月の強情な姿だった。その記憶が、彼の心に不快な感情を呼び起こしていた。

「すべては佐藤家が自ら招いた結果だ」彼は自分にそう言い聞かせ、心を硬くした。「引き続き彼女の動向を見張れ。何かあればすぐに報告しろ」

「かしこまりました」

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