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第0007話

「中......中川さん」

周囲の人々は困惑した表情で涼介を見つめた。

涼介はその場に立ち尽くし、紗月が去っていく背中をじっと見つめていた。力強く閉めたドアの音が、彼の冷たい表情に陰影を落としていた。

2年間の結婚生活で、この女性の性格をまったく理解していなかった。

さすが、佐藤という姓に恥じないな。佐藤国治と同じく、骨のある女だ。

「続けろ」

しばらく無言の後、涼介は冷静に座り直し、テーブルの牌を手に取った。

しかし、その表情は何を考えているのか、誰にも読み取ることができなかった。

「ごほっ、ごほっ!」

武田は空気を読んで場を和ませるため、「みんな、何をボーっとしてるんだ?金を払ってるんだから、立っている暇はないぞ。一人ずつステージに上がって踊れよ!」とすぐに話を切り替えた。

ママさんもすぐに動き、周りの女性たちを促した。包厢内は再び華やかで賑やかな雰囲気に戻った。

白石と武田はこの冷徹な涼介の怒りを引き起こさないよう、再び互いに目を合わせた。

涼介の全身からは冷たいオーラが漂っていた。

......

紗月はクラブを出た。

呼び交わす人々と騒がしい街の喧騒が、彼女を現実に引き戻した。

彼女は公然と涼介に辱めたことが、今になって信じられなかった。

紗月は一瞬、恐怖を感じたが、すぐに安堵の気持ちが湧き上がった。

彼女は人生で最も大胆な決断をしたが、それは同時に自分の心に最も素直な選択でもあった。

もしかしたら、2年前にこの結婚の真相を見抜くべきだったのかもしれない。中川涼介という人物をもっと理解しておくべきだった。

あんなプライドの高い彼が、ビジネスのために結婚を利用するなんてあり得ない。

そして、なぜ自分を選んだのか。

すべては復讐のためだったのだ。

家族も失い、財産もなく、親戚はみな彼女を避け、広いこの街に自分の居場所は一つもなかった。

紗月は目的もなく街を歩き、ふと見つけたカフェの前で立ち止まった。すると、突然スマホが鳴り響いた。

彼女が電話に出ると、受話器から大きな声が飛び込んできた。

「紗月、一体どこにいるんだ?君の家が空っぽだったけど、あれは涼介がやったのか?」電話の向こうからは、怒りをあらわにした高橋陸の声が聞こえた。

「陸......」紗月がこれまで保っていた強がりは、ついに崩壊し、その場にしゃがみ込んで泣き崩れた。「私は......離婚したの」

「泣くな、泣くな。今どこにいるんだ?」

陸は動揺し、すぐに空っぽの別荘を後にし、外に停めてあった赤いフェラーリに乗り込むと、すぐにエンジンをかけた。「その場で待ってろ。すぐに迎えに行くから」

そう言われてから、待つこと1時間。

紗月は心の中で陸の遅さに文句を言いながら、派手なフェラーリに乗り込んだ。通り過ぎる人々の羨望の視線を背に、陸はそのまま市内の彼のマンションへと車を走らせた。

あまりのスピードに、紗月の目は風に吹かれて赤くなっていた。

「俺、ずっと言ってたよな。涼介は信用できないって。それを聞かずに結婚して、結局、全部失ったんだな」

陸はそのまま彼女を24階に連れて行き、部屋の照明をつけた。そこは360度の角度で川を見渡せる約250畳の高級マンションだった。

紗月は呆然とし、靴を履き替えると、無意識に大きな窓際へと歩み寄り、その広がる景色に心が少しだけ軽くなった気がした。

「このマンション......少なくとも10億円はするんじゃない?」

「まあ、そうだな。今さら後悔してるか?俺が夢を追いかけてレースに行ってるだけで、家には金が有り余ってるって知ってるだろ?」

陸は片手を壁に突き、悪戯っぽく紗月を見つめた。「どうだ?俺と再婚でも考えてみるか?他の女はともかく、お前なら二度目の結婚でも俺は気にしないぜ」

もっとも、実際にはこのマンションも彼が母親に頼んで手に入れたものだ。家族企業の名義になっている物件であることは、彼は言わなかった。

「くだらないこと言わないで」紗月は身を翻し、ティッシュを二枚取って鼻をかみながら部屋を見渡した。「今は行く場所がないから、しばらくここに泊まらせて。お金を稼いだら、その時に家賃を払うわ」

陸は彼女が強がっていることに気づいていた。だが、それをあえて指摘せず、しつこく続けた。「いいよ、好きなだけ住んでくれ。一生住んでも問題ないさ」

紗月は彼に向かって目をくるりと回した。

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