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中川社長、妻の愛を取り戻す
中川社長、妻の愛を取り戻す
著者: 鈴木奈緒

第0001話

北川市墓地で、葬儀が行われていた。

黒い服に身を包み、控えめに群衆の中に立っている佐藤紗月は父親の生前の友人たちが一人ずつ弔問に訪れるのを黙って受けていた。

「佐藤さん、ご愁傷さまです」誰かが小声で言った。

紗月は涙を拭き、弔問客に感謝の言葉を述べた。

一ヶ月前、佐藤グループは完全に倒産し、数億円の巨額な負債を抱えることになった。継母は巻き添えを恐れて逃げ出し、父親は突然心筋梗塞を発症し、数日前にこの世を去った。

かつて栄華を誇った佐藤家は、こうして終わりを迎えたのだ。

人々は感慨深げに嘆いたが、それでも紗月を軽んじる者はいなかった。

彼女は佐藤家の娘であるだけでなく、商業界で名を轟かせ、その存在は人々を恐怖に陥れるほどの存在である、中川グループのCEO——中川涼介の妻だからだ。

葬儀は昼まで続いたが、中川涼介の姿は一向に見られなかった。終わりが近づいたころ、一台の控えめなベントレーが墓地にゆっくりと入ってきた。

運転手が後部座席のドアを開けると、涼介が車から降り立った。真新しい革靴が群衆の目に映り、仕立ての良いスーツを身にまとった彼は、冷たい表情を浮かべた端正な顔立ちを見せた。

それは、結婚して2年後、紗月が初めて涼介と再会した瞬間だった。しかし、よりにもよって、父親の葬儀の場で。

弔問客のほとんどが花を手にし、香典を渡していたが、涼介は手ぶらで現れたのだ。

「涼介......」だが驚くべきことに、反対側のドアが開き、真っ赤なワンピースを着た女性が現れ、自然に涼介の腕に手をかけた。「私も中に入ったほうがいいかしら?」

その姿に、涼介の表情がわずかに和らいだ。彼女の指を腕からそっと外し、「ここで待っていろ」と短く言った。

「うん、わかったわ」女は微笑み、つま先立ちして涼介の頬に軽く口づけした。

この光景は、まるで紗月の顔を一撃で打ちのめすかのようだった。

これは紗月の父親の葬儀だ。なのに、この女は赤いドレスを着て、弔問客の目の前で紗月の夫、涼介にキスをするなんて!

紗月は強く拳を握り、心を落ち着けることができなかった。それに対して、涼介は何事もなかったかのように階段を上り、彼女の前に立った。

しばらくして、彼は頭を少し傾け、紗月の視線を捉えた。187センチの高身長が彼女に重くのしかかるようだった。「どうした?二年ぶりに会ったら、口もきけなくなったのか?」

「あんた」紗月は心が痛く、涼介の表情からは明らかに悪意を感じ取れた。「何をしに来たの?」

「何って?」涼介の目は冷たさを増し、外の寒風よりも冷酷に見えた。「もちろん、お義父さんを弔いに」

彼は高圧的な態度で紗月を見下ろした。

紗月は2年前よりも美しくなっていた。腰まで届く長い髪が印象的だ。もし彼女があの男の娘でなければ、幸せな結婚生活を送っていたかもしれない。

いや、そもそも紗月と結婚するつもりなんてなかった。

紗月と結婚したのは、父親である佐藤国治に復讐するためだったのだ。

「全員、出て行け」

涼介が低く言うと、弔問客たちは一人残らず場を去った。中川グループに逆らえる者など誰一人いなかった。

最後の一人が去ると、突然、紗月の手首に激しい痛みが走った。彼女は涼介に強く引っ張られ、無理やり中へと連れ込まれた。そのまま大きな扉が閉じられた。

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