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第0004話

白川クラブは最北端に位置する、贅沢を極めた会所として有名だ。紗月がタクシーから降り立ったとき、空高くそびえる金色の看板が目に入った。

階段を数段上がったところで、すぐに係員に呼び止められた。「お嬢さん、すみませんが、ご予約はございますか?」

係員は、彼女の一見高級そうな服装をじっくりと見つめ、どこかで見たことがあるような気がした。

だが、彼女の表情はすでに無気力で、かつての富家の令嬢としての輝きは見当たらなかった。

紗月は手に持ったクラッチバッグを握りしめた。これがおそらく今の彼女の持ち物の中で最も高価なものだ。母がかつて残してくれた遺品である。

「中川グループの社長、中川涼介に会いたいんです」彼女は深呼吸し、まるで日常の一コマを話すかのように静かに言った。

この名前は北川市で知らぬ者はいない。係員は彼女が涼介の関係者だと察し、当然のように丁重に対応した。

「かしこまりました。少々お待ちください」

10分後——

「申し訳ありません、お嬢様。中川さんはお入りになる際に、どなたともお会いしないとおっしゃっていました」

係員は説明を終えると、冷たい夜風に凍える紗月を申し訳なさそうに見つめた。薄着のままこの寒空の下、中川さんを訪ねて来るとは、誰もが誤解するだろう。

冷たい風の中、紗月は白川クラブの入口で立ち尽くした。鎖骨が突き出て、細長い美脚は寒さに震え、肌には鳥肌が立っていた。

だが、すべては彼女の予想通りだった。

涼介に会うのが容易ではないことは知っていた。

彼は紗月を屈服させようとしていたのだ。彼女に頭を下げさせ、彼の意のままに動かそうとしているのだ。

だが、彼女はかつての佐藤グループの令嬢、全ての愛と羨望を一身に受けてきた紗月だ。そう簡単に負けるつもりはなかった。

「すみません、少し体調が悪くなってきたので、トイレをお借りできますか?」彼女は素早く二歩踏み出し、乱れた髪の下で輝く美しい瞳は同情を引かずにはいられなかった。

「裏口に従業員用のトイレがあります。早めに戻ってきてくださいね」係員は彼女に少し同情しつつも、慎重に対応した。

「ありがとうございます」

裏口へと続く小道を通り、紗月は白川クラブの裏口へと向かい、異様な視線を浴びながらもトイレに入った。ドアを閉めると、外では二人の女性が鏡に向かいながら化粧を直し、話していた。「聞いた?今日は牡丹の間にすごい大物が来るらしいわ。普段なら礼奈が絶対に見逃さないはずなのに、昨夜、エビにアレルギー反応が出て全身に発疹ができて、人前に出られないんだって。かわいそうに!」

「そうよ!その大物って、中川涼介でしょ?ちょうど離婚したばかりで、まさに理想の王子様だわ。今夜、どれだけ稼げるかは、この金主次第ね!」

紗月は、薄い壁の向こうから聞こえるその会話を耳にしながら、彼女たちが出て行った後、トイレから出た。乱れた長い髪を高くまとめ上げた。

水道をひねって、鏡に映ったやせ細った自分の顔をじっと見つめ、彼女は決心を固めた。

牡丹の間は、誰もが思うような派手な宴会場の光景ではなかった。

ソファに座る男たちは美女を抱き、酒を酌み交わし合いながら果物を食べ、周りには若くて美しい女性たちが座っていた。

涼介はその中心で、無造作に牌を触りながら、隣の女性が差し出す果物を食べていた。

「涼介、さっき綺麗な女が会いに来たって聞いたんだけど、断ったんだって?」

涼介の正面に座っていた中年の男が、興味津々に聞いてきた。「ちょっと聞きたいんだけど、誰だったんだ?」

涼介は牌を触る手を一瞬止め、その男を一瞥した。「大山隆一さんは、誰だと思う?」

「ただの好奇心さ!もしかして前妻だったりするのか?」

その言葉を聞いた瞬間、ソファでゲームをしていた白石大輔と武田翔太は一瞬固まった。彼らは、鷹羽不動産の社長の不用意な発言に冷や汗をかいていた。

やはり、涼介の表情は一気に陰りを帯びていた。

彼のことをよく知る者なら、顔色が冷たくなるとき、それは最も危険な瞬間であることを理解していた。

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