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第20話 男性モデルが誤って病院に迷い込んだ

紅葉はどう返事していいかわからず、軽く「うん」と返し、朝食を食べ続けた。

紘の仕事は迅速で、電話を一本かけてからおよそ二十分後、スーツ姿の落ち着いた弁護士が別荘に到着した。

輝和は契約書を紅葉に差し出した。

「何か修正したい部分があれば言ってくれ」

紅葉は契約書を受け取り、一通り目を通した。彼女が求めた条件はすべて正確に盛り込まれており、問題はなかった。

彼女はペンを取り、最後のページに署名しようとした際、数秒間ためらったが、すぐに決心し、自分の名前をすらすらと書き込んだ。

弁護士が去った後、輝和は腕時計をちらりと見て、「戸籍簿は持ってきたか?」と尋ねた。

「大事なものはすべて、以前私を世話してくれた菫さんのところに預けてあります。戸籍簿もそこにあるので、これから取りに行きますから」

紅葉はハンガーからコートを取りながら答えた。

輝和は「ああ」と応え、二人で外へ出た。

屋外の駐車場に到着したとき、輝和の携帯が鳴った。彼は一瞥し、眉をひそめながら電話を取った。

「何事だ」

「…」

相手が何を言ったのかは分からなかったが、紅葉は輝和の顔が険しくなるのを見た。その後、彼は電話を切った。

「紘、紅葉を連れて戸籍簿を取りに行ってくれ。用事ができた」

そう言い残して、輝和はマイバッハの運転席に乗り込み、すぐにつばめ園を出発した。

会社の急用?

紅葉は輝和が急な仕事に取り掛からなければならないと思い、紘に手伝いに行くよう提案した。

紘は紅葉の考えを見抜いたのか、微笑んで言った。

「吹石さんが私を必要としないということは、急を要することではないということです。心配しなくても大丈夫ですよ、さあ、車に乗りましょう」

「そうですか…」

紘の言葉を聞いて安心した紅葉は、車に乗り込んだ。

菫の住んでいる場所は市内から少し離れており、車で約二十分かかった。

紘は車の中で待っていたが、紅葉は階段を上がり、菫の住む部屋の前に立つと、中から「ガタン」という音とともに菫の「あいたたた…」という声が聞こえてきた。

「菫さん?」

紅葉は胸がぎゅっと締め付けられ、ドアを叩きながら大声で呼びかけた。

「大丈夫?」

中から返事がないのを見て、紅葉の不安はさらに増した。

菫は彼女を育ててくれた使用人であり、祖母が亡くなってからは、唯一彼女の側にいてくれる存在
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