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第19話 いいわ、結婚しましょう

森吉グループは大手というほどではないが、それでも全国百強に入る上場企業で、他の企業が買収しようとしてもその資金が足りないくらい。

そんな企業を、今輝和は半年以内に取り戻してやると言った。

紅葉はどうしても後ろ盾が必要だった。輝和は間違いなく最良の選択肢で、彼女はすぐにでもこの提案に飛びつきたいくらい衝動を感じていた。

しかし、冷静に考えたら、輝和に関する噂を思い出し、手が微かに震えた。

輝和は二度結婚しているが、いずれも結婚式前日に花嫁が突然亡くなったと言われていた。表向きには誰も口にしないが、陰で輝和が妻を不幸にする運命を持っているという噂が流れていた…。

しばらくして、紅葉はついに問うた。

「どうして私なの?」

たとえ輝和の二度の結婚がうまくいかなかったとしても、吹石家のような大富豪の家に嫁ぐことができれば、数えきれないほどの富が手に入る。

死ぬと分かっていても、たくさんの女性たちが輝和に群がっていた。

「君は家柄がないし、親族もいない」

輝和は冷たく言った。

「脅威にならないからだ」

「……」

紅葉はすぐに思い出した。最初に輝和と結婚しようとした女性は、香港の船王の末娘だったが、結婚前日に突然亡くなった。その報せを聞いた船王は悲しみのあまり、二度もICUに運ばれたという。吹石家は二十億ドルを支払い、その事態をようやく収めた。

次に輝和と結婚しようとしたのは、名門食品グループの令嬢だったが、彼女もまた結婚前日に亡くなり、吹石家はその父親からも巨額の賠償を要求された。

その瞬間、紅葉はなぜ輝和がこれまで自分を助けてきたのか、その真相に気づいた。彼は、自分が家柄もなく、親族もいないため、操作しやすいと考えていたのだ。

もし自分が突然亡くなったとしても、輝和は森吉家から巨額の賠償を要求されることはない。

輝和の冷静な口調の裏にある計算を見透かし、紅葉は背筋が冷たくなった。しかし深く息を吸い込み、決意を込めて言った。

「いいわ、結婚しましょう」

彼が自分の復讐を助けてくれるなら、この命は捧げても構わない。

紅葉が同意したのを見て、輝和の冷たい表情が少しだけ和らいだように見えた。

「明日の朝なら時間がある。戸籍簿を持って、市役所に行こう」

その言葉を聞き、車を運転していた紘はバックミラー越しに輝和を一瞥し、驚いた表情を浮かべた。
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