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第16話

麻生恭弥は、十数年にわたる感情が裏切られたのだから、松井詩はきっと片瀬響人を離れるだろうと思っていた。

しかし、彼は松井詩の忍耐力を見誤っていた。

彼女は泣き、叫び、崩壊した。

だが、結果としてはいつも同じ――彼女は片瀬響人を許した。

しかし今回は、麻生恭弥ははっきりと気づいた。松井詩が片瀬響人を手放せないのではなく、むしろ彼女が手放せないのは、長年自分の側にあった唯一の浮木だということを。

最も苦しい時、片瀬響人が現れ、彼女を救い上げた。

彼女は再び溺れることを恐れ、その浮木を必死に抱きしめ、どうしても離そうとはしなかった。

海流に流されるのも、嵐に巻き込まれ海底に沈むのも怖かったのだ。

そうであるならば、麻生恭弥自身が浮木となり、やがて片瀬響人の代わりになれるだろう。

中田葵との関係は思いがけない幸運だった。

片瀬響人が中田葵と関係を持っていることを知ったとき、麻生恭弥はチャンスが来たと感じた。

彼は半年間待ち続け、ついに松井詩から電話がかかってきた。

電話に出た時、彼のタバコを持つ手は震えていた。

松井詩は明らかに泣いており、声はかすれていた。「どこ?」

彼女はもう彼を「麻生さん」とは呼ばなかった。

その瞬間、麻生恭弥の全身の血が沸騰するように感じた。

「ヒルトンホテル3601号室」

電話は切れた。

30分後、彼女が彼の部屋のドアをノックし、ついに彼の人生に飛び込んできたのだ。

頂点に達したとき、麻生恭弥は彼女を抱きしめながらため息をついた――彼女が一度来たのなら、もう逃げることはできない。

......

その日、松井詩は午前中ずっと料理を作っていた。

しかし、麻生恭弥がほとんどの料理を嵐のように食べ尽くしたとき、松井詩は驚いた。

10品の料理とスープが全部なくなった?

「麻生さん、シリアの難民キャンプから帰ってきたの?」

麻生恭弥は「うん、中東に出張に行ってきた」と言った。

「出張でご飯は食べてなかったの?」

「口に合わなくてね、やっぱり中華が一番だよ」

突然、彼の足元が少し痒く感じ、見下ろすと大きなゴールデンレトリバーがいた。

そのゴールデンレトリバーは少し動きが鈍く、呼吸も荒く、歩くのも大変そうだった。

彼の側を通り過ぎ、松井詩の足元に横たわった。

彼女はそのゴールデンレトリバーの頭を撫でなが
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