会社を辞めてから始まる社長との恋 のすべてのチャプター: チャプター 251 - チャプター 260

　そして二人は近くの高級レストランを選んだ。　席に着いた後、静恵は自分の名刺を男に差し出し、「これは私の名刺です。狛村静恵と申します」と言った。　男は白く滑らかな手で名刺を受け取り、微笑みながら言った。「なるほど、あなたが新しく設立したYN社の会長ですね」　「特に自慢するようなことではありません」静恵は耳にかかる髪を撫でながら言った。「それで、あなたは？お名前をお聞かせ願えますか？」　「私？」男は目を細めて笑い、「森川次郎です」と言った。　森川…森川次郎？！　静恵は愕然とした。彼は晋太郎の兄、森川次郎？！　森川次郎については、彼女は祖父から一度だけ聞いたことがあるだけだった。　静恵の顔に浮かぶ驚きを見て、次郎は友好的に見える眼差しで一瞬軽蔑の色を見せたが、すぐにそれを隠した。　「何か問題でもありますか？」次郎は穏やかな口調で尋ねた。　「い、いえ！」静恵は我に返り、「本当に…偶然ですね…」と答えた。　Tyc。　紀美子は販売部と企画部との会議を行っていた。　「入江社長、新製品の発売から今までで、売上はすでに200億円を突破しました。「すぐに第二波の予約販売を開始する予定です」販売部長は言った。　紀美子はうなずいて、「分かった。アフターサービスも必ず顧客と迅速にコミュニケーションを取って。あと、店舗の場所は決めたかしら？」と言った。　「すでに決まっております、入江社長。後ほど、メールでご確認いただけるように送付します」企画部長が答えた。　「分かった。モデルの選定も慎重にお願い。来週には決定できるように…」　そう言うと、紀美子のテーブルに置かれた携帯が振動した。　楠子からの電話だと気づき、彼女はすぐに電話に出た。「もしもし…」　紀美子が話し始めると、電話の向こうから恐ろしい悲鳴が聞こえてきた。　混乱した足音も同時に伝わってきた。　紀美子は体を硬直させ、腕時計を見た。　この時間、楠子は工場にいるはずだった。　工場で何か起こったのだろうか？？　そう思うと、楠子の厳しい声が響いた。「入江社長！工場が火事です！工員はすでに避難を始めていますが、消防隊が到着するのはまだです！」　紀美子は体を震わせ、顔色も失った。「…何？」　「工場が火事です。原因はまだ不明です」　紀美子

　「分かったわ」その女性が言った。　「自分でも気をつけなさい。捕まらないように」静恵が淡々とした口調で注意を促した。　「分かってる」　そう言い終えると、相手は電話を切った。　静恵は軽蔑した表情で携帯をテーブルに投げ出した。彼女はただ一言注意を促しただけだった。　捕まるかどうかなんて彼女には関係ない。　どうせ紀美子が彼女の弱点を見つけられなければ、それで十分だ。他人のことなんて気にしていられなかい。　これからやらなければならないことがまだ他にもある。　森川次郎…　静恵が彼のことを思い浮かべると、顔には一抹の恥じらいが浮かんだ。　彼は晋太郎よりもずっと素晴らしい。年齢はすでに40代に入っているが、今の芸能界の男性俳優にも劣らない！　この男を手に入れることができれば、晋太郎なんてもう必要ない！　森川爺は長男を一番かわいがっているんだから！　彼女が次郎の隣に立つことができれば、たかが紀美子なんて、簡単に潰せるじゃない！　静恵は邪悪な笑みを浮かべ、Tycに関する世論を調べ始めた。　しばらく見ていると、彼女の視線が突然あるコメントに釘付けになった。　「なんと、Tycの社長が私の叔父の娘だって！？くそ、彼女が成功したなんて！」　叔父？　静恵は眉をひそめ、紀美子の父親の親戚か？　静恵は面白そうに笑い出した。面白い、ますます面白くなってきた！　Tyc。　紀美子は調査とインタビューを終え、疲れ果てた様子でオフィスに座っていた。　短時間の間に、カスタマーサービス部門には大量の返金申請と顧客からの罵声が殺到していた。　ネット上ではTycの服装工場の消防システムに対しても厳しい批判が飛び交っていた。　同時に、ネットユーザーたちはTycの服の品質についても疑問を投げかけ、すでに購入した顧客に対してよくチェックするよう呼びかけていた。　事態は次々と押し寄せ、紀美子には息つく暇もなかった。　「ドンドン――」　ノックの音が響き、紀美子は疲れた表情で顔を上げ、かすれた声で「入って」と言った。　楠子がオフィスに入り、一束の契約書を紀美子の前に置いた。　「入江社長、工員たちはすべて賠償契約にサインしました。彼らはあなたが提示した賠償額に満足しており、トラブルを起こすことはありませんでした。

　森川爺は急いで報告書を受け取り、最後のページを開いた。　報告書に親子関係が「0」と記されているのを見たとき、彼の眉が急にひそめられた。　「こんなことがあり得るのか？？」　医者も不思議に思った。理論により、これほど似た顔を持つ二人が親子でないわけがない。　しかし、彼も何の間違いも見つけることができなかった。　鑑定は彼が行い、報告書は最初に彼の手に渡された。　事実として、森川家の三男とこの坊やは親子ではなかった。　医者はおずおずと答えた。「ただ単に似ているだけかもしれません」　「もういい！」と森川爺は怒りを表に出して遮った。「誰か来い！」　入口に立っていたボディーガードがそれを聞いて中に入ってきた。　森川爺は怒りと悔しさで歯を噛みしめ、「その二人の子供を送り返せ！」と言った。　そばにいた執事は、「旦那様、あの二人の子供をとても気に入っているのに、もう少し長く留めないのですか？」と尋ねた。　「何だと？！」と森川爺は怒鳴った。「わしは他人の子供をただで養うような人間か？！」　執事は「はい、仰る通りです、旦那様。早くあの子たちを送り返しなさい」と言った。　「了解しました！」　階上。　下からの怒鳴り声を聞いて、二人の子供は喜びに満ちていた。　「佑樹、ゆみ、君たちは家に帰れるぞ」と言った。　ゆみは喜んで念江に抱きついて、「やっぱり念江兄ちゃんが一番頼りになる！」と言った。　佑樹は少し口を引きつらせて、「そんな言い方、どこで学んだの？」と言った。　「ママが言ってたの、賢い子は独学で覚えるんだって。ゆみはまさにその典型よ！」とゆみは誇らしげに頭を上げた。　佑樹はゆみの服の襟をつかんで、彼女を念江の体から引き離した。　「よし、興奮しすぎるな。見つかると困るから」と佑樹は警告した。　ゆみは「ふん」と鼻を鳴らし、「私が念江兄ちゃんと仲良くしているのが羨ましいでしょ？」と言った。　佑樹はゆみの額を軽く叩き、優しく微笑んで、「僕たちは実の兄妹だろ、そんな言い方はやめろよ」と言った。　ゆみは舌を出し、振り返って念江に向き直って、「念江兄ちゃん、どうするの？ 私たちもう行くわよ」と言った。　「お父さんが迎えに来るから、心配しなくていいよ」と念江は冷静に説明した。　「ふーん」とゆみは頷き、「

　工場の共同管理を担当する副工場長は、工員を避難させるための措置をとる中で火傷を負っていた。　紀美子が来ると、彼はベッドから急いで起き上がり、「入江社長、いらっしゃいましたか」と言った。　副工場長の妻も立ち上がり、椅子を譲りながら「入江社長、どうぞお座りください」と言った。　紀美子は笑みを浮かべ、後ろのボディーガードに目をやって果物を置くように指示した。　そして彼女は椅子に座り、「副工場長、警察が既に調書を取ったが、細かい点についてはまだ聞きたいことがあるの」と言った。　副工場長は「もちろんです。こちらの管理不行き届きで、ご迷惑をおかけしました」と答えた。　「お金のことは些細な問題で、皆さんに大きな問題がなかったことが一番重要よ」と紀美子は柔らかく答えた。　副工場長は「入江社長はやはり私たちのことを第一に考えてくださっているんですね。正直言って、工場がどうして火事になったのか、私にも全く見当がつきません。　火が出たのは布地を保管している倉庫からでしたが、毎日念入りに点検をしており、火の元になるようなものは見つかりませんでした」と説明した。　紀美子は「ええ、警察もそう言っていた。放火の可能性も否定できないと言っている」と言った。　副工場長は憤然として、「それは間違いありません！倉庫は閉鎖されているにもかかわらず、警報が鳴りませんでした！そのとき、誰も警報音を聞かなかったんです！」と言った。　副工場長の妻も同意して、「そうです。私たちが作業しているときには、何の異変も感じませんでした。「気づいた時には、もう火が広がっていました。すべてが絹と綿だったので、燃えるのも早かったです」と付け加えた。「その日、何か怪しい人物はいなかった？今は思い出せなくても構わないけど、後で何か思い出したら、ぜひ教えて」紀美子は言った。「入江社長、もし何か思い出したら必ずご報告します」副工場長は答えた。紀美子は彼らと少し話をした後、病室を出た。階段を降りようとしたとき、携帯が鳴った。紀美子は携帯を手に取り、佳世子からの電話だと確認し、電話に出た。佳世子の心配そうな声が聞こえてきた。「紀美子、ニュースは見たわよ。昨日忙しかったみたいだから、今電話してるの」「分かってるわ」と紀美子は力なくエレベーターのボタンを押しながら答え

　夜。　晴は杉本の電話を受け、晋太郎の意図を理解した後、バーに入った。　入口を入ると、個室に座っている佳世子を見つけた。　佳世子のそばに歩み寄ると、彼女は彼を叱りつけた。「晴犬、あんたは本当に犬ね！」　晴は驚き、笑いながらコートを脱いだ。「たった30分多く待たせただけで、そんなに怒るとは？」　佳世子は彼を睨みつけた。「私は時間を守らない人が一番嫌いなんだから！」　「わかった、わかった、気を静めて。今夜は俺が奢るよ、いいか？」晴はなだめるように言った。　「いいわよ！」佳世子はすぐに態度を180度変え、笑顔で応じた。　「本題に入ろう、何を聞きたいんだ？」　佳世子はグラスを取り、酒を注ぎながら言った。「紀美子の工場のことなんだけど、どうもおかしいと思ってるのよ、わかるでしょ？「まずは朔也のことは除外するとして…」　「ちょっと待って！」晴は話を遮った。「朔也を除外するってどういうことだ？」　佳世子は目をパチパチさせた。「朔也は工場にいないでしょ？海外にいるのに手を伸ばせるわけがないじゃない。「しかも紀美子は彼に恩があるんだから、そんなことをするはずがないわ」「君たちは本当に人間を信じやすいな」晴は言った。「それで、続けて」佳世子は続いた。「大胆な推測だけど、紀美子の会社には静恵が送り込んだスパイがいるに違いないのよ！ 「静恵が会社を立ち上げた途端に、紀美子の会社で問題が発生したなんて、これは彼女にとって絶好のチャンスじゃない？「そのスパイが誰かっていうと、私は紀美子の秘書だと思う。「あの小林楠子が最も怪しい。「彼女はまず助けるフリをして、紀美子の信頼を得た。「そして朔也がいなくなった後、彼女は工場に留まり、しかも工場で食事もしているんだから、手を出すには絶好の機会だったのよ！」「君、阿呆探偵ドラマを見すぎなんじゃないか？」晴は苦笑しながら尋ねた。「どうしてそう言うのよ？」佳世子は怒って、グラスを晴の前にガンッと置いた。「朔也がいたとき、紀美子の会社は順調そのもので、何の問題もなかった。「朔也がいなくなって、楠子を工場に配置したら、たったこれだけの時間で問題が起こったのよ。「監視カメラには怪しい人物の姿は映っていないし、毎日倉庫の在庫をチェックするのは副工場長と楠子だけだった。