Lahat ng Kabanata ng 会社を辞めてから始まる社長との恋: Kabanata 1 - Kabanata 10

756 Kabanata

第1話 お願い、助けて

帝都、サキュバスクラブ。その日は入江紀美子が名門大学を卒業する日だった。しかし家に帰って祝ってもらう余裕もなかった。実の父親に、200万円の値段で薬を飲まされクラブの汚いオヤジたちに売られた。うす暗い部屋からなんとか逃げ出したが、薬の効果が彼女の理性を悉く飲み込んでいった。廊下で、彼女の小さな頬が薄紅色になり、怯えながら迫ってきた男達を見つめた。「来ないで、私…警察を呼ぶから…」先頭に立つ男が口を開き黄ばんだ歯を見せながら、手に持っている鞭を揺らしながら彼女に近づいてきた。「いいだろう、好きなだけ呼ぶがいい。サツが来るのが先か、それともお前が俺達に弄られて昇天するのが先か」「べっぴんさんよ、心配するな、お兄さんたちがお前を気持ちよくさせてやるから…」紀美子は耳鳴りがしてきた。彼女は父が救いようのないろくでなしだと知っていた。大学に通っていたこの数年、彼女はずっとアルバイトで稼いだお金で生活していて、父からは一銭も貰わなかった。それなのに、まさか父が今、賭けの借金を返す為に娘を人に売ろうとしているとは!紀美子は逃げ出そうとするが、足が覚束なくなり、力が抜けていた。彼女は躓き床に倒れ、自分の身体を獲物同然に分けようとする人たちを目の前にして、どうしようもなかった。ちょうどその時、彼女の左前の部屋のドアが開かれた。黒色の手製の皮靴が彼女の目に映った。見上げると、男の真っ黒な瞳は冴え切った湖の如く、まるで魂を吸い取る冷たさをしていた。男を見て、彼女は少し安心した。彼女は男のズボンの裾を引っ張り、「お願い、助けて!この人たちに薬を飲まされたの!」と泣きながら助けを乞うた。男は眉を寄せ、視線は冷たく彼女を掠め、一瞬の不快を見せた。彼は身体を屈め、手を伸ばした。「助けてくださりありがとうございます…」紀美子は安心して手を伸ばそうとした。てっきり彼が自分を支えてくれると思ったその時。男は彼女の手を振り払い、自分のズボンを握っているもう一本の手を冷たく払った。この世界のトップ100の企業を牛耳るMKの社長として、森川晋太郎は決して上で動くような人ではなかった。「晋様!」彼の後ろに立つアシスタントの杉本肇は一枚のハンカチを渡してきた。晋太郎は冷たくそれを受け取り、強く紀美子に触ら
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第2話 契約秘書

 入江紀美子は当然信じなかった。学生時代、多くの友達に耳たぶのホクロは霊性があると褒められたけど。たかがホクロ一個のために、天下のMKの社長が月200万円で雇ってくれるのか?自分がおかしいのか、それとも彼がおかしいのか。呆然としているうちに、森川晋太郎はもう立ち上がっていた。彼はゆっくりとシャツのボタンを締める様子は、全身から凛とした雰囲気を発していた。「俺は人に無理なことを強要しない。自分でよく考えてくれ」言い終わると、彼はその場を離れた。扉の前では、アシスタントの杉本肇が待っていた。自分の晋様の目の下の腫れを見て、彼は明らかに驚いた。まさか、これまで自分の童貞をなによりも大事にしていた晋様が、初体験を奪われ、しかもかなり激しい戦況だったようだ。我に返った肇は、慌てて晋太郎に「晋様、手に入れた情報をあなたの携帯に送信しました。この入江さんは晋様がお探ししている人ではないようですが、追い払いましょうか?」「いいや、資料は読んだ。彼女の学校での履歴は完璧だ」「何よりも俺は彼女に反感を持っていない、そして秘書室は今能力のある人間を必要としている。もし彼女が三日以内にMKに現れたら、すぐに入社手続きをしてやれ」「もし現れなかったら?」肇は恐る恐ると追って聞いた。「ならば彼女の好きにさせろ」晋太郎はあまり考えずに答えた。……三年後、MK社長室紀美子はタブレットパソコンを持ち、真面目に晋太郎に当日のスケジュールを報告していた。「社長、午前十時にトップの会議がありまして、十二時にエンパイアズプライドの社長と会食、午後四時に政治界の方々との宴会があります…」彼女は目線を下げ、誘惑的な唇を動かしていた。小さな顔は化粧していなくても、十分に艶めかしかった。晋太郎は細長い目を資料から離れ、紀美子への視線には火が混じっていた。セクシーな喉ぼとけが上下に動いた。しばらくして、資料を机の上に置き、何かに興奮しているように長い指でネクタイを少し引っ張った。「こっちにこい」晋太郎は紀美子に命令した。紀美子は呆然と頭を上げ、晋太郎の幽邃な目線に触れた瞬間、自分が次に何をすべきかすぐに分かった。彼女はタブレットパソコンを机に置き、従順に晋太郎の前に来た。立ち止まった途端に、男
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第3話 永遠に採用しない

 「中はどうしたの?」と入江紀美子は入り口で眺めている女性同僚に尋ねた。声をかけられた女性同僚は振り返った。「入江さん。あの応募に来た女の人ね、人の作品をパクッて面接しに来たのがバレて、チーフがそのまま彼女の面接資格を取り消そうとしたんだけどね、あの女が逆切れして、今事務所で暴れてるのよ」「分かったわ」ことの前後を聞いた紀美子は人事部の事務所に入った。チーフが一人の女性と激しく言い争っている。女性の顔立ちはなかなかきれいなものだが、露出度の高いかっこうをしていた。「入江さん、ちょっと助けて、この狛村静恵さんが、人のデザイン作品を盗用して面接に来たのに、バレたら逆切れしたのよ」チーフが紀美子を見て、助けを求めてきた。「話は聞きました。もう帰ってください。MKは不誠実な人は永遠に採用しない主義です」紀美子は狛村をはっきりと断った。「関係ないでしょ誰よ、あんた。私にそんな口調で喋るなんて!あなたが不採用と判断する資格あるとでも?この会社はあなたのもの?」「私が誰なのかはあなたに関係ありません。あなたに覚えてもらいたいのは、私がこの会社にいる限り、あなたのような小賢しいまねをして入社しようとする人は、永遠に採用しないということです」紀美子は言った。「大口を叩くじゃない」女はあざ笑いをした。「覚えておきなさい!将来私がMKに入社したら、絶対にあなたに跪いて謝ってもらうから!」「そんな日がくるといいわね!」紀美子はそういうと、チーフに向かって「警備を呼んで。この狛村さんに出て行って貰うわ!」と言い放った。……夜。MKで返り討ちを喰らった静恵は電話をしながらバーに入った。「安心して、私は絶対になんとかしてあの会社に入るから」静恵は低い声で電話の向こうに言った。そして、彼女は電話を切り、カウンターに座りバーテンダーに酒を一杯注文した。この時、一つの大きな体が彼女の隣に座り込んできた。「静恵ちゃん!」静恵は振り返って隣に来た男の顔を見た。彼は彼女がこの前酒場で知り合った飲み仲間、八瀬大樹だ。男の見た目はブサイクの部類に入るものだった。しかし彼は裏表社会においてそれなりの背景を持っているらしく、静恵は彼と何回か夜を過ごしていた。彼女は少し驚いて、「大樹さん?帰ってきたの??」大樹は力を入
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第4話 話したいことがあります

 翌日、ジャルダン・デ・ヴァグ。ここは森川晋太郎の個人宅だ。時間は朝六時半頃だが、入江紀美子は既に起床して晋太郎に朝食を用意していた。彼女が晋太郎の愛人になった日から、ここに引っ越してきた。それからは晋太郎の生活は彼女一人で世話をするようになった。彼女は晋太郎の秘書、愛人、そして使用人でもあった。男が起床した頃、朝食は既にテーブルの上に並んでいた。晋太郎がネクタイを締めながら階段を降りてくるのをみて、紀美子はすぐ出迎えにいった。「私が締めて差し上げます、社長」晋太郎は手の動きを止め、紀美子がネクタイを手に取り丁寧に結び始めた。紀美子は背が低くない。170センチはある。しかし晋太郎の前ではせいぜい彼の胸の高さだ。晋太郎は目を逸らし、紀美子の体が発する香りを嗅いだ。理由もなく、彼の体内には欲の火が灯された。「社長、できました…」紀美子が頭を上げた途端、後頭部が男の大きな手に押えられた。彼の舌はミントの香りを帯びて蛇のように彼女の唇の間に侵入してきた。別荘の中には急に曖昧な雰囲気が漂った。二時間後。黒色のメルセデス・マイバッハがMKビルの前に停まった。運転手は恭順に車を降り、ドアを開けた。数秒後、晋太郎は長い脚を動かし車から降りた。オーダーメイドの黒いコートは彼の落ち着いた気質を限界まで引き出していた。その強烈なオーラはまるで神の如く、周りの人はそのプレッシャーで逃げ出したくなるほどだ。晋太郎は細長い指でネクタイを緩めながら、手に持っている資料を隣の紀美子に渡した。一瞬、奥行きの深い眼差しが少しだけ留まった。晋太郎は紀美子の少し腫れた唇を長く見つめた。そしていきなり手を上げ、厚みのある指腹で彼女の口元を軽く擦った。「口紅が少しはみ出ている」言いながら彼は親指ではみ出た口紅を拭きとった。温もりのある微かな触感は紀美子の瞳を強く震わせた。一瞬、彼女は朝彼にソファに押えられ必死に行為を求められたシーンを思い出した。晋太郎の眼底に映っている自分のとり乱れた姿をみて、紀美子は慌てて気持ちを整理した。彼女は頭を下げ、「ご注意、ありがとうございます」心臓がどんなに強く鼓動をしていても、彼女の声は落ち着いていた。晋太郎は手を引き、口元を軽く上げ、
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第5話 教えておきたいことがある

 ウィーン、ウィーン入江紀美子はテーブルの上に置いている携帯電話の振動で現実に引き戻された。母の主治医の塚本悟からの電話を見て、慌てて出た。「塚本先生!母に何かあったのですか?」紀美子は心配して確認した。塚本「入江さん、今病院に来れますか?」電話の向こうの声が明らかに何かがあるように聞こえて、紀美子はパッと立ち上がり「はい!今すぐ行きます!」と答えた。ニ十分後。シャツ一枚姿の紀美子は病院の入り口の前で車を降りた。冷たい風に吹かれ、紀美子は思わず咳をして急いで入院病棟に向かった。エレベーターを出てすぐ母の病室の入り口にレザーのジャケットを来ている男が見えた。男の口元にはタバコがくわえられていて、挑発的な口調で塚本に話しかけていた。その男を見て、紀美子は両手に拳を握り、急いで病室に向かって歩き出した。彼女の足音を聞いて、医者の塚本と男の人はこちらに振り向いた。紀美子を見て、男の人はクスっと笑った。「これはこれは、入江秘書様のお出ましか!」紀美子は塚本に申し訳なそうな眼差しを送り、そして男の人に冷たい声で伝えた。「石原さん、この間も言ったでしょ、借金の取り立てであっても病室まではこないように、と」石原はくわえているタバコのフィルターを噛みしめ、「お前のオヤジさんがまた消えちゃったんで、ここまでくるしかなかったじゃんか」と答えた。紀美子は怒りを我慢して、「今回はいくら?」と石原に聞き返した。「そんなに多くないさ、利息込みで150万!」「先月までは70万だったのに!」「その話はお前のオヤジに聞け、借用書はこっちだ、お前のオヤジの筆跡は分かるよな?俺はただ借金の取り立てに来てるだけだ」石原はあざ笑って紀美子を見つめた。石原はそう言って紀美子に借用書を見せた。紀美子は怒ってはいるが、反論する理由が見つからない。父はギャンブルにハマったろくでなしで、しょっちゅう借金を作って博打に使い、ここ数年は借金の金額が増える一方だ。借金の返済日になると、この借金取りたちが母の病院に来る。紀美子は怒りを抑えながら考えた。「分かったわ!」「金は渡すから!けど今度また病院まで取り立てにきたら、今後は一銭も渡さないからね!」言い終わると、紀美子は携帯電話から石原のLINEのアカウントを見つけ、1
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第6話 いつから熱が出た

 入江紀美子「うん、聞くわ」入江幸子は目を開け、天井を見つめて深呼吸をした。「紀美子、実はあなたは…」「幸子!」声と共に、一人の男が入り口から焦った様子で入ってきた。二人が振り返ると、男は既に病室に入ってきていた。その男の体はタバコと酒の臭い匂いを発しており、髭が無造作に生えている。男は紀美子の反対側に座った。「どうだった?石原に酷いことをされたか?」「何しに来たのよ!」幸子は嫌悪感を露わにして言った。「また迷惑をかけにきたの?」入江茂は舌打ちをしながら紀美子を見て、「紀美子、ちょっと席を外してもらえるか?俺はお母さんにちょっと話してすぐ帰るから」紀美子は心配そうに幸子の方を見たが、幸子は彼女に頷いた。紀美子はしぶしぶと立ち上がり、厳しい眼差しで茂をみて、「お母さんを怒らせないで」と伝えると、茂は何度も頷いて答え、紀美子は何度も振り返りながら病室を出た。病室のドアが閉まった途端、茂の心配そうな表情は消えた。彼は冷たく幸子を見つめ、低い声で「あのな、あんまり余計なことを喋りすぎられると困るんだけど」と言った。幸子は目から火が出そうなほど怒りが沸いてきて、歯を食いしばりながら答えた。「もう紀美子を利用させない!」「俺が金をかけて育ててやったんだから、借金の返済を手伝ってもらうのは当たり前じゃないかお前が大人しく口を閉じてくれればそれでいいが、もし何か余計なことを漏らしたら、紀美子に今の仕事を続けられなくしてやるからな!」幸子は体を震わせながらシートを握り締めた。「茂!あんた、それでも人間なの?!」茂は涼しい顔で、「そうだ、俺は悪魔だから、お前はその口をしっかりと閉じておけ。そうしないと、何が起きても知らんからな!」その言葉を残し、茂は振り返らずに病室を出た。ドアを開け、そこに立っている紀美子を見たら、茂はすぐに顔色を変えた。「紀美子、お父さんは先に帰るからな!今日のこの金はお父さんがお前から借りたことにしよう」それを聞いた紀美子は疲弊して顔を上げると、茂は返事を待たずに行ってしまった。紀美子はため息をして、病室に戻ろうとした。ポケットに入れていた携帯がまた鳴り始めた。森川晋太郎からの電話だ。紀美子は少し緊張して無意識に電話を出た。「今どこだ?」電話から冷たい声が低く鳴
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第7話 稼ぎの効率がいいから

 入江紀美子は疑惑を抱えながら森川晋太郎の前に来て、低い声で「社長」と呼んだ。「昨夜は何故帰ってこなかった?」晋太郎は冷たい声で問い詰めた。「体の具合が悪かったからです」紀美子は視線を下げながら答えた。「具合が悪かった?口まで開けない状態だったか?まずは俺に報告することを忘れたのか?」晋太郎は更に厳しい口調で問いただした。紀美子は眉を寄せ、「違います、薬を飲んで眠ってしまいました。わざと報告を怠ったのではありません。」晋太郎は無理やり目の中の怒りを抑え、益々冷たい声で、「本当に眠ってしまったのか、それともわざと他の男のところで寝て報告しなかったのか?」「えっ?」「他の男って?」紀美子は頭を上げて不思議そうに聞き返した。晋太郎は冴え切った目で紀美子を見つめ、「その質問は俺がすることではないか?」と挑発まじりに聞いた。「入江さん?」まだ戸惑っていた紀美子は、優しそうな声が聞こえてきた。一瞬、紀美子は思い出した。昨日晋太郎に電話を切られる前、塚本先生と話をしていたのだ。もしかして晋太郎が言っている男は、塚本先生のことだろうか。紀美子はこちらに向かって歩いてくる塚本悟を見て、また挑発している晋太郎の顔を覗いた。そこから説明してもすでに遅かった。悟は紀美子の傍で停まり、彼女のその針を抜いてから手で押さなかったせいで血が垂れ続けている手の甲を見た。眉を寄せながら、悟は疑い深そうに「血が出ている、この時間ならまだ点滴が終わっていないはずです」と問い詰めた。紀美子はそれに気づいて慌てて針の穴を手で塞いだ。「ありがとう、あとで処理しておくから」悟は自分の手を紀美子の額に当て、心配そうにため息をついた。「熱は退いたけど、まだ静養が必要ですよ」紀美子は晋太郎に誤解されたくないので、慌てて視線を逸らした。「分かっています」悟は仕方なく手をポケットの中に突っ込んで、ようやく隣で息を潜めている晋太郎に気づいた。「この方、患者さんは静養が必要ですので、どうか会話する時間を変更してください」悟は謙遜かつ礼儀正しい言葉遣いで注意した。「医者が体温計ではなくただ手を当てるだけで患者の体温を正しく測れるなんて、初めて見たな」晋太郎は悟に目線を合わせた。「臨床の経験を活かせば、患者さんのお時間を節約できることもあり
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第8話 謝れ

手元の仕事を片付け、まだ時間があるので、入江紀美子はカバンを持って会社に来た。エレベーターを出ると、森川晋太郎と狛村静恵の姿が見えた。「入江さん?」静恵は心配そうに話しかけてきた。「体の具合はどう?」「大分よくなったわ。心配かけてごめんなさい」紀美子は晋太郎の顔を見ずに静恵に答えた。「いいのよ、あなたが早く治れば社長のお仕事を肩代わりできるんだから」静恵は笑顔で言った。言いながら、静恵は長い髪を耳の後ろにまとめ、わざと耳たぶのホクロを見せた。静恵は優しく晋太郎を見て、「社長、後でお食事に行くとき、入江さんを連れて行きましょうか?」「いい!」晋太郎は冷たく返事した。「彼女は自分の足があるからな」言い終わると、晋太郎は静恵の腕をとりエレベーターに入った。紀美子は空気を読んで一歩引き、何事もなかったような顔で二人の横を通っていった。午後8時。紀美子はまとめ終わったスケジュールを晋太郎に送った。疲れで割れそうな頭を揉みながら会社を出ると、杉本肇は少し離れた所に立っていた。「晋様から入江さんを家に送るように言われました」「大丈夫よ、私は自分で帰るから」紀美子は断った。「入江さん、ちょっと話したいことがあります」「なに?」紀美子は無気力に答えた。「晋様は入江さんのお体の具合が良くないので、わざわざ使用人のおばさんを雇いました。その方が今、ジャルダン・デ・ヴァグで待っています」彼は何をしようとしているのだろう。紀美子は眉を寄せた。自身の憧れの人と一緒にいながら、私を手放さない。紀美子は心の中であざ笑った。自分はあの女と共に晋太郎に仕えるほど下賤ではない。彼女は再び断ろうとしたが、肇は声を低くして、「入江さん、狛村さんの身分はまだ確定していませんので、ご自分の為にもう少し抗ってみませんか?」「杉本さん、この世の中は、感情なんかより、お金の話のほうがずっと重要だわ」紀美子は嘲笑気味に肇に言い放った。その話を終わらせ、紀美子は肇の傍を通って帰っていった。肇は軽くため息をつき、後ろの席に座っている晋太郎に、「晋様、入江さんはご帰宅を拒否されています」晋太郎は唇をきつく噛み、今までにないほどの威圧感を発していた。「ならばもう永遠に帰らせるな!」「明日あいつの荷物を全部捨て、できるだけ遠く
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第9話 ヨロイグサの花言葉

「私は何も間違っていません……」入江紀美子は瞳を揺らしながら、森川晋太郎を見つめた。「謝れと言っているんだ!」晋太郎の怒りは冷たく顔に出ている。「入江、同じことを何回も言わせるな!」紀美子は怒り狂った彼の前では、すべての不満を飲み込むしかなかった。そうだ、今は狛村静恵こそが彼の憧れなのだ。紀美子はただの代替品、いつでも捨てられる玩具だ。自分のどうでもいい言い訳はその憧れの悔しさと比べれば、実に取るに足らない。「ごめんなさい」胸の痛みを堪えながら、紀美子は頭を下げて、泣きながら謝った。静恵は晋太郎の懐に埋めていた顔を上げ、「晋太郎さん、もう入江さんを責めるのはやめて、全部私が悪いの……」晋太郎は愛しんで静恵を抱きしめ、「まだ彼女の為に言い訳を言ってるのか。もう帰ろう」二人は抱きしめ合いながらその場を離れたが、紀美子の目の中の涙は堪えきれなかった。涙が、彼女の目から勢いよくこぼれ落ちた。……夕方。紀美子は仕事を終え、病院に向かった。ちょうど塚本悟が病室の前で看護婦に何かを指示しているのを見た。紀美子は近づき、悟に軽く頷いて病室に入ろうとすると、彼に止められた。「紀美子、お母さんは化学療法を終えて今寝たばかりだ、入らない方がいい」「塚本さん、母の化学療法はもう第五期ですが、今の状況はどうですか?」紀美子は立ち止まり、声を低くして悟に母の病状を確認した。「大丈夫だ、早期発見してすぐに手術を施したから、予想より早く回復している」悟は紀美子を慰めた。話を聞いた紀美子は少し安心してすぐにお金の心配に移った。「治療費口座の残高はまだ足りています?」「昨日2000万円を入れたばかりじゃないか」悟は少し驚いて聞き返した。紀美子は戸惑った。自分は決して一気に2000万円を出せない。あの人だったら、或いは…紀美子は慌てて携帯電話を手に取り、杉本肇に電話をかけた。「入江さん」「森川社長に言われて母の治療費を払ってくれたの?」紀美子は杉本に確認を取った。「はい。晋様に『黙っておけ』と言われましたが、実は昨日病院についてすぐにお母さんの口座に2000万円を入れました」肇は答えた。その話を聞くと、紀美子は無意識に携帯電話を握りしめた。暫く躊躇ったあと、彼女は晋太郎に電話をかけた。「社
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第10話 写真の中の女

 もしかして彼女こそが森川晋太郎がずっと探している憧れの人だろうか?いや、違う。入江紀美子は晋太郎が、その女の子が彼を助けた後、急に消えていなくなったと言っていたのを覚えている。大人になった彼女の顔は、晋太郎でも分からない。明らかにこの写真の中の女性はその女の子ではない。ならば彼女は一体だれだ?紀美子は晋太郎の下で3年働いた。女性について一回も聞いたことはない。しかしこの写真を見る限り、その女性は彼の心の中ではかなりの地位を持っている。紀美子は虚ろな目で写真を拾い、嫉妬の気持ちが沸いてきた。彼女は自分がもう十分晋太郎のことを知っていると思っていた。しかし今、彼女は自分が晋太郎のことを何も知らないことに気付いた。彼女が知っていることは、すべて彼が自分に知ってもらいたいことだけだ。彼の心の中にはいくら場所があっても、彼女に残すものは一つもない。そうよね。たかが愛人なのに、何を妄想しているのだろう。使用人の松沢初江が箒を持ってきた頃、紀美子は既に気持ちの整理ができていた。彼女は携帯電話を取り出し、絵のフレームを直すよう額縁屋に電話をかけた。二時間後。業者はフレームを修理し、絵を壁に掛けなおした。そして業者は紀美子に、「お客様、フレームはこれで大丈夫でしょうか?」紀美子は絵のフレームを暫くしっかりと見て、直してもらったものは前と殆ど同じなので、安心した。「うん、これでいいです。いくらですか?」「2万円になります」紀美子は携帯を出して、「今スキャンして払います」業者は請求用のQRコードを出して、紀美子に渡した。しかし紀美子が暗証番号を入力したら、画面には残高不足のメッセージが表示された。紀美子は一瞬思考が止まり、顔が真っ赤になった。彼女は自分が今月の給料を母の世話係の業者の料金と、父の借金を払ったのを思い出した。今この銀行口座にはもう1万円弱しか残っていなかった。業者はこの時彼女を見上げた。その目はまるで、「こんな豪邸に住んでいるのに、たった2万円の金も持ってないのか」と言っているようだ。紀美子は恥ずかしく携帯を戻し、「少し待ってください。今現金を持ってきますから」彼女は寝室に戻り、この金をどうすればいいかを悩んでいる時、ベッドの横のナイトテー
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