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第3話 永遠に採用しない

 「中はどうしたの?」と入江紀美子は入り口で眺めている女性同僚に尋ねた。

声をかけられた女性同僚は振り返った。

「入江さん。あの応募に来た女の人ね、人の作品をパクッて面接しに来たのがバレて、チーフがそのまま彼女の面接資格を取り消そうとしたんだけどね、あの女が逆切れして、今事務所で暴れてるのよ」

「分かったわ」

ことの前後を聞いた紀美子は人事部の事務所に入った。

チーフが一人の女性と激しく言い争っている。女性の顔立ちはなかなかきれいなものだが、露出度の高いかっこうをしていた。

「入江さん、ちょっと助けて、この狛村静恵さんが、人のデザイン作品を盗用して面接に来たのに、バレたら逆切れしたのよ」チーフが紀美子を見て、助けを求めてきた。

「話は聞きました。もう帰ってください。MKは不誠実な人は永遠に採用しない主義です」紀美子は狛村をはっきりと断った。

「関係ないでしょ誰よ、あんた。私にそんな口調で喋るなんて!あなたが不採用と判断する資格あるとでも?この会社はあなたのもの?」

「私が誰なのかはあなたに関係ありません。あなたに覚えてもらいたいのは、私がこの会社にいる限り、あなたのような小賢しいまねをして入社しようとする人は、永遠に採用しないということです」紀美子は言った。

「大口を叩くじゃない」女はあざ笑いをした。「覚えておきなさい!将来私がMKに入社したら、絶対にあなたに跪いて謝ってもらうから!」

「そんな日がくるといいわね!」

紀美子はそういうと、チーフに向かって「警備を呼んで。この狛村さんに出て行って貰うわ!」と言い放った。

……

夜。

MKで返り討ちを喰らった静恵は電話をしながらバーに入った。

「安心して、私は絶対になんとかしてあの会社に入るから」静恵は低い声で電話の向こうに言った。

そして、彼女は電話を切り、カウンターに座りバーテンダーに酒を一杯注文した。

この時、一つの大きな体が彼女の隣に座り込んできた。

「静恵ちゃん!」

静恵は振り返って隣に来た男の顔を見た。

彼は彼女がこの前酒場で知り合った飲み仲間、八瀬大樹だ。

男の見た目はブサイクの部類に入るものだった。

しかし彼は裏表社会においてそれなりの背景を持っているらしく、静恵は彼と何回か夜を過ごしていた。

彼女は少し驚いて、「大樹さん?帰ってきたの??」

大樹は力を入れて静恵のお尻を揉み、「なんだ、俺を見てそんなに緊張するなんて、まさか俺に黙って外で誰かとつるんでんじゃねえだろうな?」

「まさか!」静恵は甘えた口調で言い訳をした。「私の心は、大樹さんのものよ」

大樹は手を彼女の肩に落とし、「さっきまで困った顔をしてたじゃないか、どうしたんだ?いってみろ」

「今日はね、MKの面接だったんだけど、変な女が現れて、汚い手を使って警備に私を摘み出させたのよ!」

「お前がMKに入社したいだと?」大樹は驚いた。「何で急にあそこで働きたくなったんだ?お前の履歴じゃ、MKに入るのは無理なんじゃねえか」

「たとえ履歴がダメでも私は入りたい!この借りは必ず返すから!」

彼女はとある人から大金を受け取り、その人からなんとしてもMKに入るように指示を受けていたのだった。

大樹は静恵の体を睨みながら言った。「まさか、お前はその体でMKの森川社長を釣ろうとしてんのか?

しばらく会っていねえ間に、もう俺のことを忘れたのか?」

「何をいってんのよ、大樹さん」静恵は大樹に怒るふりをして言い訳をした。「もし本当に森川社長のお目にかかれば、私たちこれから大出世するんじゃない?」

大樹は手を彼女の背中に回しながら、「分かった、お前は俺のことを考えてそうしたんだな」と言った。

静恵は大樹に触れられて気分が悪くなった。

しかし顔は依然として甘えた表情で、「その通りだわ」と答えた。

大樹は静恵の唇に軽くキスをして、「ハニー、森川社長に近づきたいなら、いい情報を教えてやろう。

噂だけどさ、森川社長は耳たぶにホクロがある女を探してるそうだ。

その女は小さい頃一度彼の命を救って、十数年前は雲の里とかいう孤児院にいたようだが、その後どっか行っちまったようだ」

「雲の里孤児院って??」静恵は目を大きくして聞いた。

彼女の脳裏には急に幼い頃に偶然見かけた風景が思い浮かんできた。

「どうすればいいか、分かったよ、大樹さん」静恵は何か企むような笑みを浮かべた。

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