初江は、料理を運んで来る途中に晋太郎を見つけてすぐに出迎えた。「お帰りなさいませ」晋太郎はネクタイを緩めながら尋ねた。「最近、彼女はご飯を食べていないのか?」初江は困った顔で答えた。「入江さんはここ最近ずっと夜更かししていまして、そのうえ食事も不規則なので、すっかり痩せてしまわれました」「夜更かし?」晋太郎は閉じられたままの洗面所に目を向けた。「何をしているんだ?」初江はまだ紀美子が廃棄するよう言ってきた原稿を指さした。「絵を描いておられます」晋太郎はその廃稿の一枚を手に取り、目を通した。服飾デザインの原稿?晋太郎は考え込んだ。彼女の履歴書にデザインの経験については何も書かれていなかったはずだ。いつからこんなことを学び始めたんだ?晋太郎が次々と原稿をめくっていると、紀美子が洗面所から出てきた。晋太郎が自分の原稿を見ているのに気づくと、紀美子の顔色はさっと変わり、原稿を取り戻そうと慌てて近づいてきた。「見ないで」晋太郎は眉をひそめて、彼女を睨んだ。「いつから学んでいるんだ?」紀美子は嘘をついた。「暇なときにネットで勉強したの。ここに閉じこもっていると退屈だから」「ここ数日、重要な用事があったんだ。だから病院には行けなかった」少し間を置いてから、晋太郎は説明してきた。紀美子は無表情で答えた。「分かっています。晋樣は忙しいので、私のような小さな秘書のことなど気にしていられませんものね」晋太郎は眉をひそめ、冷たい声で言った。「紀美子、説明してやっただけでも俺の最大の譲歩だ。調子に乗るな!あの夜お前を病院に送らなかったのは、命に関わる大事があったからだ!」紀美子は冷笑した。彼の子供が流産しかけたというのに、他の女が何かに怯えて電話してきただけで彼はそっちを優先した。命に関わる大事?一体どちらが?しかし、今の彼女には彼と争う気力は残っていなかった。ただ静かに言葉を返した。「分かりましたわ、晋樣」晋太郎の顔は陰鬱になった。彼は、紀美子のこうした無関心な態度が何よりも気に入らなかった。本当は彼女が少しでも甘えて、素直に頭を下げて、「あの夜、一体何があったの?」と聞いてきてくれることを望んでいた。そうしたら、少しは真実を彼女に話し
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