入江紀美子はどうやってそのネックレスを断るかを考えていて、塚原悟が入ってきたのに全く気付かなかった。その時の悟の挙動は、紀美子を吃驚させた。「私に朝ごはんを作らせるんじゃなかったの?」二人は近すぎて、紀美子は気まずくて顔が真っ赤になった。「冗談だよ、今日は俺の誕生日じゃないし」悟は軽く笑った。紀美子は、「誕生日の祝いはあまりしたくないけど、佳世子を家に呼んできて一緒にご飯を食べるってのはどう?そうすればみんなでワイワイできるし」と無力に勧めた。「うん、今日は君の誕生日だから、君が決めて。俺は手伝うから」「分かったわ」紀美子が言い終わった途端、悟に両手で肩を捻じられ、身体を反転させられた。「では、外で朝ごはんの出来上がりを待ってて」紀美子は苦笑いながら無理やりに台所から押し出されたが、1階にいてもすることがないので、2階に上がって子供たちを呼び起こしに行った。子供たちを連れて顔を洗って降りてきた頃、悟は既に朝ごはんの準備ができていた。入江ゆみは悟を見て、嬉しそうに走っていった。「悟パパ!会いたかったよ、最近は何処に遊びに行ってたの?」と聞いた。悟はゆみを抱き上げ、愛情を込めて彼女の小さな鼻を指で撫で、「前回会ってからまだそんなに経っていないよ、もう会いたくなった?」ゆみは小さな手で悟の首を抱えて顔で擦りながら、「うん、とても悟パパに会いたかった」と答えた。入江祐樹は台所の階段に寄り添って、「悟パパのことを念じていたのを見ていないけど?」と言った。ゆみはすっと小さな体をまっすぐにして、兄を睨みながら文句を言った。「お兄ちゃんはうるさい!黙ってて!」祐樹は口元に優雅な微笑みを浮かべ、眉を動かしながら、「じゃあ、お兄ちゃんの質問に答えて、ゆみはお母さんを愛してるの?」「なんて幼稚的な質問なの?」ゆみは小さな唇をすぼめてフンと鼻を鳴らした。祐樹「ゆみ?なるほど、じゃあ、お母さんへの誕生日プレゼントを用意したの?」「あっ……」ゆみは固まった。「今日はお母さんの誕生日だったの?!」「そうだけど?」祐樹は妹をからかった。「で、プレゼントは?」ゆみは申し訳なそうに目を瞬いて紀美子の方を見て、小さな人差し指をつつき合いながら、「お母さん、ごめん、ゆみは忘れちゃったの……」と謝った。「いいのよ」
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