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第0222話

輝明は顔を上げて軽く「うん」と返事をし、再びネクタイを締め始めた。

まるで何事もないかのように、淡々とした態度だった。

彼は、犯罪的にまで美しい男だ。たとえ、寝起きのぼんやりした姿でさえも。

輝明は唇を軽く噛みしめながら、近くに置いてあったスーツのジャケットを手に取った。綿は、彼の長い指が一つ一つボタンを留めていく様子をただ見つめていた。

なんてことだ。嬌はなんて幸運なんだろう。

「じゃあ、行くよ」輝明はそう言って立ち上がった。

綿はその場に立ち尽くし、彼が去っていく背中を見送りながら、心の中でため息をついた。

だが、彼がドアに手をかけた瞬間、突然足を止めた。

輝明は振り返り、綿に視線を向けた。

「何?」というような表情で彼を見返す綿。

すると、彼は突然、唇をほんの少し持ち上げ、余裕を感じさせるように片眉を上げながら、何気なく言葉を投げかけた。

「綿お嬢様の腰、すごく柔らかいね」

綿:「……」

何ですって!?

自分が寝ぼけて彼の胸に飛び込んだことを思い出し、綿は顔が赤くなった。

なんて情けないんだ。不安定な天気にビビるなんて、なんて恥ずかしい!

しかも、昨夜彼が言っていたこと―あの夜酔っ払ってからの出来事―何が起こったのか?自分は何を忘れているんだ?

輝明がその話をするとき、何故か彼が歯を食いしばっているような気がする。思い出すたび、楚綿はもやもやとした不安を感じた。

……

輝明は家に戻り、身だしなみを整えていたが、会社に向かう前に秀美に出くわした。

「昨晩、家に帰らなかったの?」秀美は驚いた表情で聞いた。「一緒に寝たの?」

輝明:「……」

「お母さん、そんなに暇なら、俺が仕事でも紹介しようか?」と、輝明は尋ねた。

秀美は顔をしかめ、「私は忙しいのよ!あんたと綿ちゃんの問題が解決しない限り、私はずっと忙しいの!」と答えた。

彼女は話しながら、茶卓に一通の招待状を置いた。「郵便受けにこれがあったから、代わりに取っておいたわよ」

輝明はその招待状を手に取り、確認すると、三日後に開かれるエンターテイメント業界の晩餐会の招待状であることが分かった。

秀美はため息をつき、ブツブツと文句を言い始めた。「輝明、あんたもいい年なんだから、もう少し自分のことをしっかりしなさいよ!」

輝明は招待状を放り投げ、腕時計を整えながら、「
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