共有

第0227話

足音が止むと、綿は思わず顔を上げた。

そこには見慣れた男性の姿があった。

綿は手にしていたものをそっと置き、ゆっくりと立ち上がると、その男性をじっくりと見つめた。

「高杉…どうしたの?」綿の声は、戸惑いを隠しきれない様子だった。

その声に反応して、桑原看護士が振り返ると、雨に濡れた髪を気にもせず、明らかに焦りと苛立ちを浮かべた輝明が立っていた。

彼の後ろには森下と病院の警備員二人が続いていた。

「なんで電話に出なかったんだ?」彼の声には、抑えきれない怒りが滲んでいた。

綿はポケットを探りながら、電話…?と思い出した。

あ、服を着替える時に病室に置き忘れたんだ。

「病室に…置いてきた」綿は無意識に下の階を指さした。

輝明は一歩前に進み、綿をじっと見つめた。彼の中には言いたいことが山ほどあったが、結局言葉にはならなかった。

病室に…?

この女、深夜に電話に出ない上に、病室にもいないなんて…心配で死ぬかと思った。

輝明は思わず顔をそらし、深く息をついた。

まあいい。無事ならそれでいい。

彼は綿をちらっと見て、低い声で「病室に戻って休め」と言った。

「嫌だ」綿は即座に拒んだ。

桑原看護士と一緒にいる方が安心するから。

輝明は眉をひそめ、明らかに苛立ちを隠せなかった。「何を怖がっているんだ?」

「怖がってなんかないわよ!桑ちゃんが怖がってるから、私が一緒にいるの!」綿は桑原看護士の腕を掴んで、彼女を前に押し出した。

桑原看護士は戸惑い、え?と声を漏らした。

輝明は桑原看護士をちらっと見て、「本当?」と眉を上げて問いかけてるみたいだ。

桑原看護士は困惑し、どうすればいいのかわからなくなった。

輝明は冷笑し、綿の手を強引に引っ張り、無理やり連れて行こうとした。

「戻りたくないわ!戻っても一人きりだし…」綿が抵抗しようとしたが、言い終わる前に彼に抱き上げられてしまった。

彼の体はまだ少し湿っていた。

:綿は彼の深い瞳を見つめると、なぜか大人しくなった。

「俺は人じゃないのか?」彼が問いかける。

綿は唇を動かし、「あなたは陸川を会いに行くんじゃなかったの?」と問い返した。

「誰がそんなことを言ったんだ?」彼は綿を抱えたまま歩き出した。

綿はその顔を見つめ、心がざわめき始めた。

彼の服の端をそっと握りしめ、恐る恐ると尋ねた。
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status