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第177話

氷川颯真は橋本美咲の前に歩み寄り、彼女を優しく抱きしめた。そして、美咲の香りを軽く吸い込みながら、彼女の耳元で囁いた。「奥さん、いい香りだ。身体も柔らかくて、このまま抱いて帰りたいな」

橋本美咲は氷川颯真の行動によって、耳まで赤くなり、身体に力が入らなくなった。この男、場所を選ばないのか。ここは外だというのに!

一方、近くにいたスタッフたちは、誰もが目を伏せ、心を鎮めていた。中には床に目を向け、自分たちの会場のタイルの数を数え始める者までいた。とにかく、氷川社長と奥様を見ようとする者はいなかった。

氷川颯真が抱きしめ終えた後、ようやく名残惜しそうに橋本美咲を放し、彼女の柔らかな手を取りながら言った。「奥さん、行こう。まだアクセサリーを選んでいないんだ」

橋本美咲は沈黙したまま、こめかみを揉みながら、疲れた様子を見せた。

「颯真、どうしてまだ選ぶものがあるの?アクセサリーや小物は、ファッションデザイナーが用意するべきじゃないの?なぜ私たちが選ぶの?」

氷川颯真は肩をすくめて答えた。「奥さんに好きなものを選んでほしかったんだ」

すぐさま、颯真は気づいたかのように言った。「奥さん、疲れたのか?」

橋本美咲は疲れた様子でうなずいた。そう、とても疲れていた。午後はずっとあちこちに行って、先ほども全身のケアを受けたばかりで、眠気がすでにまぶたに押し寄せていた。

心の中で、美咲は氷川颯真と自分のどちらが、女性なのかと疑い始めた。

普通、女性の方が買物欲が強いはずなのに、氷川颯真は自分の方が興味を持っているようだった。

もしこのことを、氷川颯真に問いただしたら、彼はきっとこう答えただろう。奥さんを飾り立てて、喜ばせることに関しては、絶対に疲れないわ。

そして、今、氷川颯真は疲れた様子の橋本美咲を見つめ、優しく彼女の頭を撫でながら言った。「疲れたなら、早く家に帰って、ゆっくり休もう。明日はオークションに参加しなければならないから。

「アクセサリー何かは、リチャードに合うのを持ってこさせるから。そのときに選べばいい」

橋本美咲は頷くと、眠そうなまま車に戻ろうとした。数歩歩いたところで、突然体が宙に浮くような感覚を覚えると、氷川颯真に抱きかかえられた。

橋本美咲は驚いて目を瞬かせると、眠気で鈍った頭が再び働き始めた。美咲は叫び声を上げた。「氷川颯真、何をする
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