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第175話

しばらくしてから、リチャードはようやく手に持っていた服のデザイン画を橋本美咲に手渡した。

橋本美咲はそれを受け取ると、少し驚いた。リチャードがあれほど長い時間かけて描いたデザイン画が、意外にも普通のドレスだったのだ。彼女は疑問を抱きながらさらに見続けた。その服は凄く保守的なクルーネックのデザインで、肩の袖の部分がひときわ目を引いた。ドレープが効いた生地を使っていて、その曲線は非常に滑らかで優雅であった。

ウエスト部分はコルセット風になっていて、スカートの裾も最初のデザイン画から大幅に変更されていた。最初のスカートはふんわりと花びらのように巻き上がっていたが、このスカートは完全に開いていない百合のようで、体にフィットしつつも、タイトスカートのように過度にヒップや脚のラインを強調するわけではなかった。

全体的にはとても美しいが…

そのオークション会場に来るすべての人が連れてくる女性たちは、おそらく凄く華やかな服を着ているだろう。自分がこんなに地味な服を着て行ったら、氷川颯真に恥をかかせるのではないか?

またしても心配する必要のないことを心配していたのだ。

橋本美咲はドレスのデザイン画を見終わると、それを氷川颯真に手渡した。

今回、氷川颯真の顔には満足の表情が浮かんだ。見せるべきところも見せるべきでないところも露出していなかった、凄く良かった。この服の見た目は地味だが、リチャードの腕前を信じれば、図面以上の出来になることは間違いないだろう。

颯真は上機嫌でデザイン画を軽くリチャードの手に置いた。「これにしよう。完成したら、妻を連れて試着しに来る。今夜中に仕上げられるか?」

リチャードはまだ一息つく間もなく、氷川颯真の「今夜中に仕上げられるか?」という言葉に冷汗をかいた。

彼は信じられない様子で氷川颯真を見つめた。「何を言っているんだ?この服を今夜中に仕上げろって、私は…」

リチャードは何と言ったらいいのか分からなかった。一方、橋本美咲は少し困惑した。彼女が見たそのドレスは凄くシンプルで、すぐに仕上げられると思っていたのに、なぜリチャードはそんなに驚いていたのだろう。

幸いなことに、リチャードの次の言葉が彼女の疑問を解いた。「氷川颯真、このドレスの見た目はシンプルだけど、私はこのドレスに銀糸を使うつもりなんだ。多くの場所に隠し模様を縫い込まなければな
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