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第153話

「会社は今のところ無事だ。儂が間に合ったおかげで、大株主が持ち株をさらに売却するのを阻止した。つまり、今も儂らが会社の主導権を握っているということだ」

彼は少し間をおいてから尋ねた。「一体どういうことか、早く教えてくれ」

会社が無事だと聞いて、黒崎拓也はほっとした。その時になって初めて、自分の体の痛みに気づいた。

黒崎は2、3時間縛られていた手足と、鈍く痛む後頭部を揉みながら、頭を振った。

「わからない。月影ちゃんが急に家に帰ってほしいと言ったから。しかし、家に着いた途端に目の前が真っ暗になって、後頭部が痛んで、気を失った。目が覚めたらここにいたんだ」

その話を聞いた黒崎会長は眉をひそめた。「自分の体に、何か欠けているものがないか確認しろ」

黒崎会長は別荘を見回した。中の物は整然と置かれていて、荒らされた形跡はなかった。これは押し込み強盗ではなさそうだ。

一方、黒崎拓也は自分の体を調べ、何も失われていないことを確認した後、携帯を開いた。すると、助手からの十数件の電話と一通のメッセージが目に入った。

黒崎はそのメッセージを開いてみると、引き落とし通知だった。正確に言うと、橋本月影の会社の口座への送金だった。

黒崎拓也は黙って、携帯を父親に渡した。

「父さん、別荘に来る前に、俺は橋本月影に、この金を振り込んでいないわ」

彼の心の中の疑いが確信に変わった。

黒崎会長はこれまで長い間ビジネスをしてきたので、当然ながら、人を見る目はあるのだった。

息子の言葉を聞いて、すぐに理解した。彼は目を細めた。「行くぞ。橋本月影の会社に行って彼女を探そう」

氷川颯真がこの知らせを知ったのは翌朝だった。颯真は助手からの報告を聞いて驚いた。

事の成り行きを把握すると、颯真は奇妙な表情で電話を切り、橋本美咲を呼んだ。

「奥さん、良い知らせがあるんだが、聞きたいか?」

橋本美咲は茫然とした顔で聞いた。「どんな良い知らせなの?」

「橋本月影が黒崎グループの親子に精神病院に入れられたんだ!」

「何?!」

橋本美咲は驚愕した。どういうこと?

黒崎拓也は橋本月影のことが好きではなかったの?

氷川颯真は、助手から得た情報を橋本美咲に伝えただけだった。

「僕の知る限りでは、あの黒崎会長と黒崎拓也の二人が、怒り狂って橋本月影の会社に押し入って、激しい争いを繰り広げ
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