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第141話

橋本美咲の会社に向かう途中、稲山明弘は奇妙な目で、氷川颯真を見ていた。

氷川颯真は彼の視線に鳥肌が立ち、不安そうに聞いた。「どうしたんだ?なんでずっとそんな風に僕を見ているんだ?」

明弘は一言では言い表せない口調で言った。「まさか、氷川颯真、お前が奥さんに働かせるなんて。普通なら、奥さんを甘やかして、毎日部屋に閉じこもってお前のことだけを見るようにするんじゃないの?」

氷川颯真は冷たい目で明弘を見た。「それは人の人身の自由を制限するってことだ。弁護士なのに、もう少し頭を使えないのか」

稲山明弘は咳払いをすると、心の中でその奥さんにますます興味を持った。氷川颯真を完全に手懐けるとは、一体どんな大物なんだろう?

まもなくして、氷川颯真は稲山明弘を連れて、橋本美咲の会社のビルの下に到着した。

受付の女性はすでに氷川颯真のことを知っていたので、颯真が来たのを見て、察してすぐ電話をかけた。

「美咲さん、氷川社長が来ましたよ」

そう言った後、受付の女性は電話を切った。そして、氷川颯真に社長専用のエレベーターで、橋本美咲のオフィスに直接行くように案内した。

橋本美咲のオフィスのドアを開けた途端、氷川颯真は愕然とした。美咲の机の上の山のように積まれた書類を見て、思わず唾を飲み込んだ。どういうこと?

なぜこんなにたくさんの書類があるんだ?妻がこれを全部対処していたら、頭がハゲるんじゃない?

颯真は少し心配しながらも、自分の妻を気の毒に思った。

幸いにも、その言葉を口には出さなかった。じゃないと、氷川颯真、君は間違いなく帰ってから、正座させられただろう。

ドアが開く音を聞いて、橋本美咲は顔を上げ、驚いた。

「颯真、どうして来たの?」

すぐに、視線を稲山明弘に移した。「こちらの方は?」

稲山明弘は興味深々なように橋本美咲を見た。美しい顔立ちに清らかな気質、そして微かに強さを感じさせる雰囲気を漂っていた。

なるほど、氷川颯真の好きなタイプはこれなのか。本当に予想外だった。

橋本美咲が彼のことに触れたのを聞いて、明弘は無意識に自分の服を整えると、上品な態度で美咲に言った。「こんにちは、お嬢さん。稲山明弘と申します。

「氷川社長があなたのために、お呼びになった敏腕弁護士です。今後ともよろしくお願いします」

そう言いながら、紳士的にお辞儀をした。

その一
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