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第142話

二人が少し話した後、橋本美咲は手元の書類を置き、優しく氷川颯真に微笑みかけた。

「ねえ、来る時、ご飯は食べたか?」

氷川颯真は橋本美咲を甘やかすように見つめた。「いや、奥さんが退勤するのを待っていたんだ」

橋本美咲はため息をついた。「私が家にいなくてもちゃんと食べてね。胃を傷めたらどうするの?」

そう言うと、氷川颯真と稲山明弘を会社の食堂に連れて行こうとした。歩きながら明弘に言った。「稲山さん、苦手な食べ物はありますか?キッチンに注意するよう伝えますね。好きな料理も教えてください。先に作ってもらいますから」

稲山明弘は橋本美咲の質問を聞いて、心の中でツッコミたくて仕方がなかった。確かに自分のことを気遣って、好みに合わせてくれているのも分かる。それでも、一言だけ言わせて。奥さん、もうお腹いっぱいだよ。氷川颯真との惚気はもういいから。

稲山明弘の顔に出ていたツッコミを見抜いたのか、氷川颯真は冷ややかな目で明弘を一瞥した。

「大丈夫、彼に食べたいものを聞かなくていい」

え?橋本美咲は茫然と氷川颯真を見つめ、少し当惑していた。それってよくないんじゃない?

親友でしょ?食べたいものを聞かないなんて。男同士の付き合い方ってこんなに変なの?氷川颯真は妻の心の中での自身のイメージを気にして、珍しく橋本美咲に説明をした。

「こいつはネギも、ニンニクも、ナスも、匂いの強い肉類も食べない。もし料理にニンニクが使われているなら、ニンニクペーストなら受け入れられる。とにかく色々と食べないものが多いんだ。彼に苦手なものを聞いたら、きっとこう答えるだろう」

「何?」

橋本美咲は茫然とした。

「これも食べない、あれも食べない」

え、それって…

橋本美咲は本当に茫然とした。

彼女は、こういう上流階級の坊ちゃんは多少好き嫌いがあるかもしれないと思っていたが、ここまでとは思わなかった。

美咲は唾を飲み込み、稲山明弘を一瞥した。

夫の友人だから、無視するわけにはいかないわ。

「海鮮料理はどうですか?ネギ、ニンニク、ショウガを使う時は、それぞれタレに変えてもらって、それでどうでしょうか?」

橋本美咲は少し考えてから、稲山明弘に提案した。

それを聞いた稲山明弘は、感動のあまり地に這いつくばる思いだった。さすがは奥さん!優しいし、氷川颯真のような冷たい人とはまったく違っ
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