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第120話

氷川は、妻が手を煩わせたのを心配したから、

「美咲、このハンカチは召使いに任せた方がいいよ。きっと丁寧に洗ってくれるから、心配しなくて大丈夫」と優しく言った。

美咲は少し不満そうにため息をつきながら答えた。

「私だって水に触れるのは好きじゃないのよ。

「でも、約束したことだし、自分でやりたい」

美咲は仕事以外は怠けがちな性格だが、

一度約束したことは守る主義だった。

氷川はそんな彼女の強い意志が理解できずにいたが、

最近、彼は疑問に思ったことはそのままにせず、直接聞くことにした。

「どうしてそんなにそのハンカチを自分で洗いたいの?」と彼は我慢できず尋ねた。

美咲は軽くため息をつき、氷川に向かって言った。「颯真、何か忘れてない?私、他の人に頼まれたことがあるって言ったよね」

「ああ、これは長谷川さんのハンカチなの?」

彼は冗談交じりに言った。「ハンカチなんて、十五分で洗えるのに」

あのね、十五分もかからないって知ってるだろう?それなのに、どうしてそんなに美咲に自分で洗わせたくなかったの?

しかし、氷川なら、当然のようにこう答えただろう。「妻の手は宝物だ、他の人とは違うんだ」

さて、美咲は説明を続けた。

「違うわ、これは千夏のハンカチじゃない。彼女だったら、私に洗わせたりしないから」

その時、氷川の嫉妬心がふつふつと湧き上がってきた。長谷川さんではないとしたら、誰が美咲にハンカチを渡したのだろうか?

さっきまで美咲のことばかり気にしていて、このハンカチに全然気づかなかった。

このハンカチは暗い色の四角形で、上に淡い模様があって、男性用のコロンの香りがした。

一目見て男性用のハンカチだと分かった。

美咲はこんなものがあるのはなぜだろうと、疑問に思っていると、氷川が質問した前に美咲が話し始めた。

「この前、大学のキャンパスに行った時、雨で全身がびしょ濡れになっちゃって、それで大学に入ってからすぐにコンビニに行って服を買ったの。その時に偶然、同じクラスだった一年の同級生に会った。

「彼が食事をおごってくれて、本当にいい人だったのよ」

いつの間にか話題がそれていて、美咲の顔には自然な笑顔が浮かんでいた。

当時の情景を思い出したかのように。

妻の話を聞いた氷川は目を細め、「へえ、本当にいい同級生なんだね、男の子だろう?」と確認す
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