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第126話

彼は深呼吸し、二人に向かって歩み寄ってから挨拶した。「橋本美咲、来たよ」

橋本美咲はこの時、ようやくキャンパスから出てきた須山啓太に気づいた。

一方、氷川颯真は、啓太をとっくに見つけていた。

朝早くのキャンパスには、人がほとんどいなかった。この時間にやって来たのは、妻と約束した人以外には、誰がいるというの?

啓太を気づいたからこそ。

氷川颯真は巧妙に体で、橋本美咲の一部の視界を遮りながら、親しげに橋本美咲の服を整えていた。

それこそは須山啓太が先ほど見た光景の理由だった。

ここで一言言わせてもらう。嫉妬する氷川颯真は本当に子供っぽくて、何とも言えなかった。

「須山啓太、来たのね」

橋本美咲は少し気まずそうに、目の前の須山啓太を見た。氷川颯真が洗って縮ませたハンカチを思い出すと、何だか心が落ち着かなかった。

そして、須山啓太はすでに普段の状態に戻り、優雅に橋本美咲に言った。「うん、ごめん。待たせちゃって。ところで、隣の方は?」

須山啓太は知っていてわざと尋ねた。

橋本美咲はようやく、自分が須山啓太に、氷川颯真を紹介していなかったことに気づいた。急いで颯真をそばに引き寄せ、指差して言った。「この人、前に話したことがあるわ。私の夫。

「名前は氷川颯真」

氷川颯真は嫉妬していたが、橋本美咲が彼を紹介するのを聞いて、瞬時に気持ちが落ち着いた。目の前の煩わしい男も少し好意的に見えた。

颯真は須山啓太に向かって微笑んだ。「初めまして、氷川颯真だ。よろしく頼む」

そう言うと、左手を差し出した。

儀礼は完璧で、須山啓太も氷川颯真と握手した。

やはり、自分の予想通りだった。この人が橋本美咲の旦那だったのだ。

ところで、橋本美咲の旦那の…

苗字は氷川?

須山啓太は以前、橋本美咲が言っていた、彼女の旦那の企業が、世界トップ10に入るという話を思い出した。

一瞬で、啓太はあの世界一の氷川グループと、目の前の氷川颯真を結びつけた。

彼は驚きと同時に無力感を覚えた。橋本美咲の旦那は非常に優れた人物で、彼らの関係も非常に良さそうだった。やはり自分の思い上がりだったのか。

二人は握手をした後、すぐに手を離した。須山啓太と氷川颯真の接点は橋本美咲だけだったから。

実際に会った後は礼儀正しいが、どこか疎遠な感じがした。

須山啓太は何事もなかったかのよう
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