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第12話

「なんで私を引っ張るのよ?私は本当のことを言っただけよ。山本美香の心には、絶対にまだあなたがいるに違いないわ。彼女はあなたに捨てられたことが悔しくて、適当に男を見つけて恋人のフリをさせてるんじゃない!」

「夢美!もうやめろ!」

秦野夢美がそう言い終える前に、佐藤良一は怒りを含んだ声で彼女を叱った。

「良一、あなた今私を怒鳴ったわね。まだ山本美香のことが好きじゃないの?もう私のことを愛していないの?」

秦野夢美の目には、たちまち涙が浮かび、まるで大きな傷を負ったかのように、可憐な表情をしている。

彼女のそんな姿を見て、私は冷笑を浮かべた。いつもこうやって可哀想な女のフリをするのが彼女の得意技だ。佐藤良一も、きっとこの姿に騙されたのだろう。

結局のところ、男はみんなか弱くて愛らしい女性が好きだ。私は、そのタイプとは正反対だからね。

「佐藤マネージャー、女性を選ぶ目を養った方がいいですよ」

墨田英昭は私の腰に回していた手を放し、佐藤良一の前に歩み寄り、秦野夢美を一瞥した後、冷笑を浮かべながら言った。

寡黙な墨田英昭がこんな毒舌だとは思わなかった。そして、佐藤良一の顔が保てなくなった

それを見て、内心すごくスッキリした。

「墨田社長、ちょっと用事がありますので、これで失礼します」

佐藤良一は見栄っ張りな男だ。さっきの秦野夢美の振る舞いが彼のプライドを傷つけたから、墨田英昭にそう告げてから、秦野夢美を連れてその場を去った。

「今見たでしょ?美香が適当に選んだ男でも、あなたみたいな浮気男よりずっとマシだよ!」

彼らが去る時、夏野美穂は皮肉を込めてさらに一言付け加えた。

二人の姿が消えると、私はもう限界で、笑顔を保てなくなった。

墨田英昭を一瞥し、しばらく躊躇った後、私は彼に感謝の言葉をかけた。「さっきは助けてくれてありがとう」

「友達を先に帰らせろ。お前と話がある」

墨田英昭は隣にいる夏野美穂を一瞥し、冷たい声でそう言った。

「私たちの間に話すことなんて何もないでしょ。ほかにないなら、先に帰るわ」

なぜか分からないが、墨田英昭のあの底知れない瞳と目が合うたびに、私は動揺してしまう。彼の目には吸い込まれてしまいそうな感覚があるのだ。

私は夏野美穂の手を引いてその場を去ろうとした。あの夜、酒に酔って墨田英昭と一緒に過ごしたことはあるけど。今
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