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第4話

「もし彼女が兄さんをはめなかったら、彼女と結婚することなんてなかったでしょ!」

友代は不満そうな顔で続けた。

「母さんがどれだけ彼女に良い薬を与えても無駄よ、だって君は彼女に子供を産ませる気がないんだから!」

しおりは手を拭きながら出てきたが、二人の会話を聞いて再び後ろに下がった。

「お兄さん、私は友達にも君が結婚しているなんて言えないの。あんな女だって言ったら、皆笑うわ!でも、今の白石さんは大スターよ。母さんだってもう反対しないはず。兄さんが頷けば、私から母さんに話すわ」

「彼女のキャリアは今上り調子だからな......」賢也はタバコに火をつけた。

やはり、彼が離婚に応じないのは、ユリカが「愛人」として世間から非難されるのを避けたいからだった。

いつでも彼はユリカの利益を最優先にしている。

しおりの鼻がツンとし、目が潤んだ。

彼女の尊厳はすでに賢也によってズタズタにされており、今ここに出ていったら、最後のプライドさえも失うことになるだろう。

「きゃっ!」

お茶を運んできた使用人がしおりとぶつかり、驚いて彼女を見つめた。

「奥様、お手が......」

「大丈夫です」

しおりの手の甲はすぐに真っ赤に腫れ上がった。

突然、賢也が彼女の手首を掴み、強引に彼女をキッチンへ引っ張り、水で手を冷やさせた。

彼は不機嫌で、しおりが火傷しても黙っていたことが彼の苛立ちをさらに募らせた。

「お前、あちこちで俺が君に手を出さないって言いふらしてるのか?」

「......」

しおりは彼を見上げた。

そんなことは言っていない。

それは友代が家に来て、しおりを責め立てた結果だ。賢也がその場にいないたびに、友代はしおりに詰め寄り、彼がしおりと一緒に住んでいないと断定したのだ。

しおりは何も弁解しなかった。それは事実だからだ。

「私が間違ってる?」

「お前に興味ないから」

「興味がないなら、なんで離婚しないの?」

しおりが淡々と問いかけると、賢也の目が一瞬鋭く光った。

タバコを握る彼の手には青筋が浮かび、しおりをじっと見つめたまま、彼は一分ほど何も言わずにいたが、そのまま彼女を無視して立ち去った。

「食事が終わったら、お茶でも飲んで」と千代がリビングに戻り、使用人に新しく入れたお茶を運ばせたが、賢也は手を振って拒否した。

「しおりちゃん、彼に渡して」

千代がしおりを招き、彼女にお茶を手渡すよう促した。

しおりは笑顔で茶碗を手に取り、「お義母さんの心遣いを無駄にしないで」と優しく言った。

二人は約束していた通り、家族の前では仲良く見せる必要があったので、賢也はここで反抗することはできなかった。

彼はしおりの鮮やかな笑顔をじっと見つめ、その目は少し暗くなった。

しおりの顔立ちは清楚で冷ややかだったが、笑顔を見せると一転して魅力的になり、特に吊り上がったその目は、何とも言えない色気を帯びていた。

しおりはお茶を賢也の口元まで差し出した。

「私が飲ませてあげる......」と、彼女は甘い声で囁き、彼の腕に絡みついた。

賢也は彼女の手首を握り、一息でお茶を飲み干した。そして、しおりが茶碗を戻そうと身をひるがえした瞬間、彼は彼女の顎を掴んで引き寄せた。

「んんっ......?」

しおりは無理やりお茶を飲まされた。

千代は二人の愛情溢れる様子を見て、わざと照れたように目を覆った。

「さあさあ、もう一日疲れたでしょう。上に行って休んで」

部屋に戻ると、しおりは怒りを露にした。

「賢也、本当にひどすぎる!」

「お前は俺が手を出さないと不満だったんだろ?」

「そうなら、もっと踏み込んでみたら?」

しおりは彼のネクタイを掴んでベッドに押し倒し、彼の上にまたがった。

「離婚する気がないなら、せめて子供を作ってよ」

賢也はすぐにしおりをひっくり返して押し倒した。

彼はしおりの耳元にかかる髪を払い、彼女の顔をゆっくりと指でなぞった。唇に触れたとき、彼の瞳は一瞬暗くなった。

「寝ろ。夢の中なら何でも手に入るさ」

そう言うと、彼は立ち上がって浴室に向かった。

しおりはベッドのシーツを握りしめ、怒りを抑えようと必死だった。

どうせこうなることは分かっていたのに、自分で恥をかいたようなものだ。

彼女は部屋の香を消し、枕の下から香り袋を取り出した。千代はただの香り袋だけでなく、彼女の寝間着まで薄手のスリップに変えていた。

義母が孫がほしいという願いは本当に切実で、息子の無関心ぶりに対しても焦りを感じているのだろう。

しおりがどうすべきか悩んでいると、賢也が背後から声をかけた。

「お前が何を着ようと、俺には興味はない。好きなものを選べばいい」

まるで心を刺すような一言だった。

昔、しおりがウサギのコスチュームを着て、ベッドでポーズを決めて彼を待っていたことがあった。しかし、賢也は彼女を見るなり、数秒間驚いた顔をしただけで、すぐに毛布をしおりに投げつけ、「俺の目を汚すな」と言い放った。

この数年間、しおりがどんな手を使っても、賢也は決して彼女の望み通りにしなかった。

だからこそ、しおりももはや何の気負いも感じなかった。

お風呂から上がり、しおりは肩掛けだけを羽織りながら髪を乾かしていた。その時、突然、賢也が彼女に近づき、彼女の腰を抱き寄せた。

「......」

しおりは驚き、ドライヤーを止めて鏡越しに彼を見つめた。

彼の頬は少し赤く、呼吸は荒い。ある部分がしおりにしっかりと押しつけられていた。

「あのお茶......何か入ってた」

千代が彼らをここに泊まらせた理由が、孫を作らせるためだったことがやっと理解できた。

「お前が俺に飲ませたんだろう?」

賢也は彼女の細い腰を撫でながら、低く言った。彼の手は熱く、しおりの体がその熱に反応し、彼女自身も体温が上がっていくのを感じた。だが、彼女が彼にキスしようとした瞬間、賢也は体を避けた。

「硬くなったか?」

彼はわざと挑発するように言い、彼女に押しつけてきた。

「......」

しおりは無表情で何も言わなかった。

「俺がEDじゃない以上、離婚の理由にはならないな」

彼はしおりをあからさまに辱めている。

しおりは怒りを感じながらも、顔には嘲笑の笑みを浮かべた。

「それがどうしたの?使えないなら、結局ただの役立たずじゃない!」

「使えないだと?」

賢也は冷笑した。「三年前、高熱で一週間寝込んだのは誰だった?」

「それは、あんたが乱暴で下手くそだったからだろう」

「それはお前への罰だったんだ......くっ!」

突然、しおりの柔らかい手が彼に触れた。賢也の眉が一瞬にしてひそまり、身体の本能と理性が激しく引き裂かれる。抗おうとする一方で、体はさらに彼女に近づこうとしていた。

しおりは彼の息が荒くなるのを感じ、さらに挑発しようとしたその時、部屋の中で電話が鳴った。

それは賢也の携帯で、彼の表情が一瞬で冷静に戻り、しおりを押しのけて電話に向かった。

しおりも後を追い、ベッドサイドの電話を見た。画面には「ユリカ」と表示されていた。

「もしもし」

「賢也、どうしよう......私のキャリアはまだ始まったばかりなのに......」

白石ユリカの弱々しい声が聞こえてきて、泣き声が混じっていた。

しおりは急に賢也の腰に腕を回し、甘えた声で言った。

「まだこんなに強いのね。でも、戦闘力は落ちてないかしら?」

昔なら、浮気は許されず罰せられたはずなのに、今や堂々と男を奪おうとしている。

だが、しおりは正妻の立場だ。誰も怖くはない。

電話越しのユリカは、しおりの声を聞いた途端、黙り込んだ。

賢也はしおりの手を握り、彼女を一瞥した。しおりは彼に悪戯っぽく微笑み、そして力強く彼を握り返した。

賢也は苦しそうに息を呑み、その目には再び欲望の炎が宿った。

しおりはつま先を立て、彼の首にキスをしようとしたが、賢也は肘で彼女の胸を軽く突き、彼女を止めた。

「すぐに行く」

賢也は電話を切り、ズボンを取り上げて履き始めた。

しおりは胸を押さえた。身体の痛みよりも、心の痛みが何倍も大きかった。ようやく体が熱くなり始めたというのに、その血液は一瞬で冷めてしまった。

賢也は彼女を一瞥することもなく、急いで服を着た。

もう諦めるべきだ、完全に手を引こう。

どんな時でも、賢也の心と目にはユリカしかいない。しおりは、妻としての最低限の権利すらも持たせてもらえない。

三年間、彼女はすべての時間と労力を賢也に捧げ、彼の好みを自分の好みとし、関係の改善を望んでいた。

だが、現実は彼女に重くのしかかり、彼女を打ちのめした。

階段を降りる彼の急ぎ足の音が、まるで鋭い刃物のようにしおりの心を切り裂いていく。

痛い。

リンリンリン!

しおりの携帯が鳴った。彼女はそれを取り、通話ボタンを押した。

「はい、高橋です」

「すぐに病院にお越しください。お弟さんの容態が非常に危険です」

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